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№1364 社員引抜と信用毀損によって事業を奪った事例

№1364 社員引抜と信用毀損によって事業を奪った事例
 他社の社員を引き抜くこと自体は必ずしも違法行為とは言えないが,程度が過ぎると違法行為となる。他社の社員を引き抜いた上,さらにその社員が引き受けていた事業を丸ごと持ってこさせたという事例では「不正競争防止法」違反が認められることがある。

 紹介の事例は人材派遣会社Y社は,同じく人材派遣会社X社より社員を引き抜いた上,X社の取引先に虚偽の事実を告げて新たにY社と契約を結んだという事例だ。虚偽の中身というのが次の通りだ。

 ① 事業規模を縮小し,部門を切り離すること。
 ② 事業をX社からY社に引き継がせることで協議できていること。
 ③ 従業員はX社からY社に円満に移ることで話がついていること。

 つまり,人材を引き抜いた上で,今後は私どもの会社が事業を引き継いだと伝えて,取引先を奪っていったのである。

 判決文では事業規模の縮小,人材不足になる,事業移転などについて調整が済んでいるというような虚偽の事実は許されないとして,不正競争防止法違反を認定した(知的財産高裁H25.9.10判決,判時2207号,76頁)。

 不正競争防止法2条1項14号は「虚偽の事実の」の「告知」又は「流布」が「競争関係にある他人の営業上の信用を害する」場合に違法とされる。

 営業とは広く収支計算をして行われる事業一般を含む広い概念であり,営利活動を行う会社の場合には経済的方面における外部的な信頼がここでいう「営業上の信用」となる。本件は上記事実が信用を害する行為として賠償を命じたのである。

 賠償額は約6009万円で,下請代金との相殺分があるためX社の請求は一定減額されている。しかし,この損害額はX社が顧客との契約を続けることができた場合に得られたであろう利益を考慮した金額となっている。