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№1561 脱税と刑罰,租税逋脱罪

№1561 脱税と刑罰,租税逋脱罪

 脱税と認定された場合,重加算税と呼ばれるかなり重い行政罰がかかる。金額が大きく特に悪質であるとされる場合には租税逋脱罪という刑罰の対象にもなる。

 たとえば,相続税法68条は次のように記載している。
「偽りその他不正の行為により相続税又は贈与税を免れた者は、10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」

 ここでは「偽りその他の不正行為」をした者を罰することになる。
 単なる不申告,過少申告だけでは「偽りその他の不正行為」とは言わない。最高裁は物品税の過少申告事案について,「単に正規の帳簿への不記載という不作為」だけではなく,「税の賦課徴収を不能若しくは困難ならしめるようななんらかの偽計その他の工作を行う」必要があるとした(S42年11月8日判決)。

 ところで,最近逋脱罪について無罪となった事案がある。
 Xは相続に際して被相続人(A)の預金、有価証券を一部申告しなかったことから相続税の過小申告となった。この過少申告に対して相続税法68条にいう租税逋脱罪で起訴されたが,「偽りその他不正の行為」がないとして無罪となった。

 この事案は子どもや架空名義の預金などいわゆる「名義預金」と言われるものがあった事例だ。相続人たる妻は夫名義の預金は申告したが自分や子ども,架空名義は申告しなかった。その結果,調査が入り,親族名義,架空名義の預金が発生した。
 
 税務調査の結果は次の通りだ。結果的に1億5000万円を脱税したことになる。これくらい巨額になるとどうしても行政罰だけでは無く,刑事事件にも発展してしまう。
  実際:相続税課税価格  10億6360万5000円  相続税額 2億2976万0500円
  申告:相続税課税価格  7億3180万5000円 相続税額 8886万0500円  

 ところが,本件では妻には「偽りその他不正の行為」はないものとして無罪を言い渡した(神戸地裁H26.1.17判決)。妻は名義預金の存在を知っていたが,税務に無知でとくに隠した様子もないため「ことさら」不正を働いた訳では無いとされたのである。

裁判所は次の事実を認定して「ことさら」を否定した。
  ① 名義預金については知識のなさから申告するべきであるとの認識は無かった。
  ② 親族名義の預金も申告するよう税理士からの指導は無かった。
  ③ 税理士の指示通り動き,過少申告に主体的,積極的関与はない。
  ④ 親族名義の預金については,それぞれの名義人の所有になっていると信じていた。
  ⑤ 一部残っている夫名義の預金については「申告期限が迫っていた上,想像以上に遺産が膨大で,B税理士から指示されたものを揃えるのに精一杯という状況であったため,そこまで気が回らなかった。」

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