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№1123 過少申告に税理士の債務不履行責任を認めた事例

№1123 過少申告に税理士の債務不履行責任を認めた事例
 人材派遣業は人材を派遣して利益を得る業務形態なのだが、人材会社と派遣者との間には雇用関係が存在する。当然賃金を支払うことになる。

 本件はこの賃金を「課税仕入額」に含めて計算したために、消費税及び地方消費税が過少申告となってしまい、過少申告加算税、延滞税合計896万4900円を支払うことになった事例だ。

 賃金が「課税仕入れ」に当たらないことは常識中の常識だ。税理士で、この会社には本当に税理士がついていたのかと疑われてしまう。

 消費税は売上に課せられる。しかし、仕入の段階で消費税が付されている場合はその分引かなければならない。つまり、仕入のうち消費税が付されている仕入れ、課税仕入れの分は差し引いて消費税額を計算することになる。賃金はそもそも消費税がついていないから課税仕入れとして差し引くことはあり得ない。

 ともかく、本件は賃金部分を「労務賃金」として処理され、課税仕入れとして差し引いてしまった。

 税理士側の言い分は、依頼者から提出された書類の範囲で申告書を提出すれば税理士としての義務は果たしたことになると主張した。また、経理担当者にも疑問を呈していたのであるから責任はないと主張した。

 本件での問題点は、提出された財務諸表意外に税理士はどこまで実態を調査する義務があるかという点である。

 税理士と納税者との関係は単に記帳を代行したり、書類を作成したりするにとどまらない。納税義務の適正な実現を図ることも目的に入れた高度に専門性が求められる関係にある。

 税理士は依頼者の指示に従って業務を行う場合であっても、不適切な指示であれば、問題点を指摘して依頼者の信頼に応える義務がある(千葉地裁H9.12.24判タ980号195頁、東京地裁H21.10.26、判タ1340号199頁)。

 判決文では本件では賃金はどのようにされているか、異常に「労務賃金」が膨らんでいる点について問題意識を持つべきではなかったかなど問題点が指摘されている。

 ※ 参考 須藤英章「税理士の責任」新・裁判実務体系(8)