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№1033 智者の慮は必ず利害を雑(まじ)う

№1033 智者の慮は必ず利害を雑(まじ)う

 孫子の兵法には常に敵との心理的な駆け引きを伴う。戦場にあってはきれい事で物事を進めることはできない。

 「兵は詐をもって立ち,利をもって動き,分合をもって変をなす者なり」とし,敵を欺くことを基本として,利益のみによって動き,臨機応変に分散集合してものごとに対処すると述べている。

 常に利害得失を考えて行動することは実に「戦略的」であるということに他ならない。一定の目標を設定して,利害得失を天秤にはかり,もっとも利益になる行動を決めていく。これが戦略の基本だ。

 だから孫子は言う。
 「智者の慮は必ず利害を雑(まじ)う」。すぐれた戦略家とは,利害を必ず考える。利益には常に害が伴い,害には利益が伴う。害だと思っても利益に転ずることもある。出陣に出遅れをとっている場合であっても,それが逆に敵をおびき寄せる手段になることもある。

 この「利害を雑じう」の意味は,単純にものごとに利益の面もあれば損失の面もあるという意味だけではなく。積極的に不利を利に転じるチャンスととらえる面もあるという洞察力をつけろという意味にもなる。

 「詐」をもって利害を考えるというような発送はは戦争に立ち向かい相手を撃退する場面での発想だ。私の考えでは平時はまた異なる。平時の活動者である事業者は常に正しくあらねばならない。孫子のいう利害得失の発想も,お互いに生き残る,ウィンウィンの関係を作り上げる上での利害得失ということになる。

 ものごとを戦略的に考えることは正しい。ものごとは利益と損失によって動いていくであろうと発想することも正しい。ものごとに表裏があるという発想も正しい。さらに,不利な事象を有利に転じさせていく読みの深さも正しい。

 しかし,事業にあってはこれらの発想は常に,誰もが得をするための戦略を実現するために利用される発想として応用されなければならない。けっして,誰かを裏切り,犠牲にして利益を得るという「戦時」の発想であってはならない。これが私の基本的な信条だ。