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№1011 彼れを知り己を知らば、百戦して殆(あや)うからず

№1011 彼れを知り己を知らば、百戦して殆(あや)うからず

 これは余りにも有名な言葉だ。およそ万事に通じる名言だ。ビジネスの世界でも通じると誰もが思っているだろう。有名すぎて、どんな注釈も平凡、月並みで陳腐になりそうだ。

 しかし、「彼れを知りおのれを知れば・・・・」とは具体的にはどんなことだろう。敵を知る、味方を知る、さらに具体的に突き詰めていくことで、この名言にも味わいが出る。

 孫子は言う。
「故に勝を知るに五あり。」
つまり、勝利のために「彼を知り、己を知る(彼知己知)」基準は五つあるというのである。

第1 「戦うべきと戦うべからざるとを知る者は勝つ。」
 戦うべき時と、戦うべからざる場合の分別ある者は勝つという。「彼知己知」とは、双方の力量を推し量り、勝機の分別を付けるということだ。この点はドラッカーも似たようなことを言っている(マネジメントⅡ、日経BP)。経営者が危機に瀕したとき、「自社の事業はに何か。」が問われるという。打って出るか、止めるかという問題は自社を知り、敵を知り、戦うべき時と戦わざるべき場合の分別を付けていくことにある。

第2 「衆寡の用を識る者は勝つ。」
 大兵力と小兵力の運用を知る者は勝つ。兵力の多寡を敵と比較して正確に知ることが必要だというのである。

第3 「上下の欲を同じうする者は勝つ。」
 上とは将軍を頂点とした幹部、下は部下たちだ。上の者と下の者と「欲」つまり、目的、戦略を共同にした者は勝つという。ビジネスの世界では最も大切なことだ。「欲」という文字を使っているところが意味深いではないか。つまり、部下も求めていく動的な感じがするというのは勝手な解釈だろうか。

第4 「虞を以て不虞を待つ者は勝つ。」
 計略をもって臨む者は、計略を持たない者に勝つ。すぐれた戦略を持った者が戦争に勝利する。この発想もビジネスでは意味深い言葉ではないか。

第5 「将の能にして君の御せざる者は勝つ。」
 将軍が有能で、君主が余計な干渉をしないのは勝つ。ドラッカーに従えば、権限を明確にし、労働者に自由を与えるというところか。

 この五事、戦うべきか戦わざるかを知る、敵味方の兵力の多寡を知る、上下が同じ目標を持って動く、きちんとした戦略を持っている、能力ある部下にまかせる、という極意が、最終的には「彼れを知り己を知れば、百戦して殆(あや)うからず」という言葉に凝縮されていくのである。実に味わい深いではないか。

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  故に勝を知るに五あり。
  戦うべきと戦うべからざるとを知る者は勝つ。衆寡の用を識る者は勝つ。上下の欲を同じうする者は勝つ。虞を以て不虞を待つ者は勝つ。将の能にして君の御せざる者は勝つ。
  この五者は勝を知るの道なり。
  故に曰わく、彼れを知りて己を知れば、百戦して殆[あや]うからず。彼れを知らずして己を知れば、一勝一負す。彼れを知らず己を知らざれば、戦う毎[ごと]に必らず殆うし。(孫子より)