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№1032 経営を引き受ける覚悟

№1032 経営を引き受ける覚悟
 私が所属している中小企業家同友会の例会で経営を引き受ける覚悟が話題となった。
 話題提供者は会員企業の1つだ。

 この会社は設立は昭和48年と古い。平成9年ころ幹部同士の不仲から幹部が従業員の約半数を引き連れて独立し,残された社長が経営意欲を失ってしまった。そこで,社員ナンバーワンだった現社長が会社を承継した。当時,負債は数千万円あった。

 突然社長となってしまった現社長は大変だったろう。何しろ,借金は数千万円,社員判半減してしまい,創業者の社長は経営意欲を失っていたというだから。現社長は残された社員と一人一人面談し,ついてきてくれるか話し合ったそうだ。

 新社長は,経営を根本からやり直した。まず,財務状態を正確にした。月次の売上報告を確立した。社員には売上げなど経営状態を明らかにして共有した。銀行対応を一からやりなおした。無借金経営を目標にして徐々に借金を返済して,やがて無借金経営を実現した。

 社長としてのあり方を勉強するために事業者団体にも積極的に顔を出した。中書企業家同友会に入会して会員間で「躍進感動企業研究会」を運営したり,「さくらんぼの会」を運営したり経営者同士の交流を進めた。この交流は単なる交流ではなく,より経営に踏み込んだ社外取締役会議のような意識だったという。

 社内の雰囲気をよくするためにボーナス支給時の個人面談を実施した。社員の誰よりも早く出社してあいさつする活動もした。現役大学生ボランティアに依頼して仕事のやりがいについてのインタビュー記事をつくりあげ,パンフレットにしたりした。

 社長の報告を聞いて,私たちは社長の「覚悟」というものを語り合った。
 いったい,会社の経営を引き受けるというのはどういうことだろうか。
 会社の経営は不安定なものだ。先を見通すことはできない。しかし,行き着く先を決めることはできる。行き着く先を決めて今を決断することが社長の決断だ。未確定というリスクを引き受けるというのが社長の覚悟だ。未確定という夢を引き受けるというのも社長の覚悟だ。

 覚悟を決めたとき,社長は道に向かって「やるしかない」と動き出す。それは社内外の環境,顧客の状況,社員の一人一人といった現場に立ち向かう行動だ。「現実」に対する感性を研ぎ澄まし,直視し,最良の判断を積み重ねていく過程だ。それでも失敗はあるかもしれないだろう。いくつかの失敗の中に1つの成功があればよい。

 覚悟というのは不安と夢とを引き受け,現実から逃げずに直視し,道を確実に登り切ろうという行動にあるということではないだろうか。それが、今回の報告の教訓のように思う。