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№819 信用金庫の理事に忠実義務違反が認められた事例

№819 信用金庫の理事に忠実義務違反が認められた事例
 会社の社長、銀行頭取、信用金庫理事など、会社重役には会社に対する忠実義務が認められる。役員は会社のために最善の選択をしなければならない。

 とはいっても、社長は時にはリスクを冒さなければならないこともあり、「経営判断の原則」と言って、かなりの幅の裁量が認められている。会社の舵取りを任せている以上、冒険的な行為も任せているはずというのが法律の立場だ。

 この事例では、不動産会社がビル建設にあたって、3億5000万円(第1融資)、2200万円(第2融資)、1億2000万円(第3融資)が行われた。この外にもいくつかの不正融資が行われた。

 例えば、貸付先の経営状態を良好に見せかけるために、別会社に融資をし、さらに別会社が貸し付けるという迂回融資まで行っていた。とんでもないことだ。この融資の中にはなんと弁護士が連帯保証人になっている。われわれの常識からは考えられないことだ。

 判決によるとこの信用金庫の常務会審査会案件と呼ばれる重要案件は次のようなプロセスになる。

 ①営業店の審査→②審査部→③営業店担当課長と審査部長協議→④審査部長と担当役員協議による融資稟議案件の判断→⑤事前協議申請→⑥常務会審査会→⑦稟議→⑧稟議成立後実行

 この長いプロセスの中で、様々な資料が作成され審査される。銀行の人は大変だね。

 この事件では不動産会社は平成13年7月に設立された会社だった。その新しい会社が8月3日には融資を申し込んでいる。事前協議の申請と稟議の申請も同時に行われ、、8月15日には第1融資3億5000万円が実行されている。申込みから実行まで、わずか12日間だ。まともな資料はほとんど提出されていない。

 こんな融資があるのか思わず思ってしまう。私の知り合いの中小企業は日々資金繰りに苦労し、プロパー融資など夢物語のようになっている。余りにもずさんな融資に、人ごとながら許せない気持ちになってしまう。

 判決は異常な融資であり、理事としての忠実義務に違反するとして、当時の理事に責任を認めた。3名の理事に最大の責任を認め、それぞれ1億3721円の支払を命じている(宮崎地裁H23.3.4、判時2115号118頁)。