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№1133 倒産会社の代取に対する責任追及

№1133 倒産会社の代取に対する責任追及
 取引先が倒産してしまうと債権は回収できない.連鎖倒産することだってある。こうした未回収債権に対して、代表取締役個人に対して責任追及することは出来るだろうか。

 会社法429条1項は次のように定め、個人責任の可能性を認めている。
「役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。」

 会社法の原則に従えば、会社の責任を代表者個人に請求はできない。さらに、倒産寸前だとしても社長としては立て直しのために事業を維持することは許されるので、倒産直前の取引について社長個人の責任は必ずしもできるものではない。

 しかし、悪質な場合については会社法429条1項により責任追及をする余地がある。最近、こうした悪質な社長の個人責任を認めた判決が出ている(静岡地裁H24.5.24.判時2157号110頁)。
 
 これは富士ハウス社が多額の債務超過に陥り、工事を完成することが不可能な状態であるにも関わらず建物建築工事を受注した。さらに請負代金を「円高差益キャンペーン」と称して前倒しして工事代金を集めていた。

 判決文は言う。
「被告甲野(仮名)は、・・富士ハウスが請負工事を完成させる可能性が極めて低いことを知りあるいは知ることができたにもかかわらず、・・・あえて請負代金を受領したものと言わざる得ず、・・・かかる行為は、富士ハウス代表取締役としての忠実義務に著しく違反した任務懈怠というべく、かつ・・・重大な過失があるというべきである。」

 債務超過に陥っていても企業維持のために代取は資金回収しなければならない。時にはそのための宣伝も必要だろう。あえて工事を受注することもある。従って、法律は常に個人の責任は認めていない。「重大な過失、悪意(故意)」ある場合に個人責任を限定しているのである。本件は詐欺に近い行為が組織的に行われたことを重視して取締役個人の責任を認めたのである。