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№444 耐震偽装の法的責任

№444 耐震偽装の法的責任

一級建築士が耐震構造に関する計算を偽装した場合、誰が、どのような責任を負うのだろうか。これは世間を注目を集めた事件だが、マンション建築業者、マンション販売業者、指定確認検査機関、行政と関係者が交錯する現代的な問題をはらんでいる。

 
 札幌の事例は、マンション施工販売する業者が、設計事務所に設計・監理委託契約を締結した事例である(札幌地裁H21.10.29判時2064号83頁)。
 設計事務所は2級建築士に設計を再委託したところ、これが耐震計算書などを偽装した事例である。マンション建築後偽装が明らかになり、マンション販売契約は全て解約した上、販売業者はマンションの解体を余儀なくされた。
 
 委託契約には再委託が禁止されていた上、設計事務所耐震偽装を見抜けなかったのである。これは当然、委託者に対して設計事務所に責任がある。問題は、マンション購入者に対して責任を負うかどうかである。あるいは、安全性を欠いたことから通行人などに損害を与えた場合には責任を負うだろうか。直接の契約関係にはないため問題になる。
 
 最高裁はその建物に対して、建物としての基本的な安全性が欠けることのないように配慮する義務があるとしている(H19.7.6判時1984号34頁)。つまり、直接契約関係にない、居住者、通行人にも責任を負うとしたのである。 
 
 テレビで有名になった岐阜県のホテルの事例では、設計事務所、建築業者、ホテル経営コンサルタントも責任を負った。さらに、建築主事を使用している岐阜県も責任を負った(H21.2.24判時2942号32頁)。
 
 ところで、冒頭の札幌の地裁の事例だが、販売契約解除による買戻し費用8億2000万円、マンション解体費用3790円などが賠償の対象となった。
 原告はなぜか、全額賠償せず、その内の5億円を請求したに過ぎなかった。これは、弁護士がそんなには勝てないだろうと思ったため、最初から一部しか請求しなかったのだろう。このあたりは弁護過誤というところか。