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№2203 データ偽装の法的責任

№2203 データ偽装の法的責任

 本来の品質を欠いているにもかかわらずデータを偽装して出荷した場合の法的責任はどのようになっているだろうか。契約で求められた品質がなのであるから債務不履行責任を負うことになる。

 経営者としては賠償はあるにしても最小限にとどめる一方,顧客との信頼回復を図らなければならないという極めて難しい状況に追い込まれる。しかし,こういう時こそ経営者としての真価が発揮されると考え強い使命感のもと行動を開始することが必要だ。顧問弁護士も危機管理に際して重要な役割を担うが,ここでも弁護士の能力ははっきり分かれる。

【賠償の範囲】
① 通常損害
  通常予想される損害のことだ。在庫の返品を受けなければならないし,偽装商品を利用して製品を加工した場合なども加工費用も賠償範囲になるだろう。品質検査に必要な費用も賠償問題となる。
② 特別損害
  契約上,特別に予想された損害については特別損害といって賠償範囲になる。加工品を転売先及び使途が想定されたような場合だ。たとえば断熱塗料がマンションや戸建てに利用されることを想定されて塗料を販売したような場合,最終ユーザーに対する賠償も射程に入ってくる。

【賠償問題の範囲で問題になる論点】
① そもそも不良品と言えるか
  データ偽装と言っても単なる内部基準でしかない場合は債務不履行の問題は生じない。また,仕様照らして機能に遜色なければ債務不履行ということにならない。

② 不良品だからといって使いものにならない訳ではない
  データなど偽装し,不良品であっても商品としては機能する場合がある。そもそも仕様になっていなかったり,仕様書があいまいだったり,余裕を考慮して製品化している場合,不良とは言っても十分使える場合がある。この場合は損害の発生がないとも考えられる。

③ 不良品対応でラインが停まってしまった場合
  「ジャストインタイム」の思想が広く通用しているので,部材の継続供給が一般的にある。基本契約に商品供給義務を明記している場合がある。その場合は一定期間の逸失利益(生産できたら得られたであろう利益)は問題となりうる。しかし,供給義務がないような場合,あるいは代替品が供給できる場合など逸失利益が発生しない場合もある。

④ 最終ユーザーに対する損害
  食料品なで髪の毛や昆虫などが入ったりすると全品リコールなどという事態もありうる。これも一定の範囲で賠償問題は生じうるも,最終ユーザーに対する信用維持のために過剰に反応した場合には賠償外ということになる。

⑤ 買う側にも責任がある場合
  不良品であることを知りつつ,直ちに知らせないで放置していたような場合,買う側にも責任がある。検査を怠ったまま不良品を使い,その商品を売ってしまったような場合などは不良品の責任を負うという訳にもいかない。

【契約書検討の重要性】
 データ偽装など不良品を出荷してしまった場合,契約書を十分に検討する必要がある。次の点を見ることが必要だ。

 ① 不良品のクレームをいえる期間制限はないか
   民法上は知ったときから1年,商法上は6ヶ月という制約がある。商法の制約は特に厳しく,この条文を利用することによって相手の損害賠償請求を止めてしまうこともできる。

 ② 不良品対応が限定されていないか
   不良品がある場合,通常,代金減額,修理,交換と3つの責任を負う。契約書によっては対応方法を限定している場合がある。契約書が不十分な場合,債務不履行責任のとの関係があいまいだったりする場合にはこの3つの責任だけを負うという解釈も可能になる場合がある。

【顧客との信頼関係を回復する】
  不良品を出した場合には顧客の信頼を失ってしまう。大企業の場合,かなり厳しい。それでも,中小企業の場合は食い下がる必要がある。その場合の交渉経過は概ね3段階に分かれる。

 ① 直ちに謝り,原因を解明に向けた努力を行う。法的責任は負うと伝えるが,法的責任の範囲は具体的には言わない。

 ② 原因解明に向けた努力について,こまめに経過報告を行う。

 ③ 原因をデータをもって解明し,改善点を掲げ,前よりもよい商品を作ることができるとアピールする。この場合,問題の検証プロセスのノウハウが蓄積されたこともアピールポイントとなる。

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