№404 預金の取引経過の開示(中小企業法務)
預金口座の取引経過は開示するのが通例になっている。
当人が請求するのは当然だが,遺族が請求できるかは問題があった。近時,最高裁はこれを肯定した。
預金は銀行にとっては,借入と同じだ。銀行では不良債権を経費処理しているらしい。このあたりは私たちの普段の感覚とは違う。
法律上,預金債権は消費寄託契約という名前がついている。貸付金は消費貸借契約という名前がついている。預け入れる行為だから,性質が違う。
ところで,預金の場合,金融機関と預金者との関係はどのようなものだろうか。振込入金の受け入れ,定期預金の自動継続処理,各種料金の自動支払いなどいろいろある。銀行との関係はお金を預かってもらうという単純な関係ではない。
法律実務から言うと,しばしば問題になるのが,報告義務の性質だ。
最高裁は預金口座の取引経過の報告義務を認める(判タ1188号213頁)。これは取引経過は預金事務処理という金融機関の事務処理が適切かどうかを判断する上で必要不可欠なものだから,当然だ。最高裁はこれは,預金契約上の本来的な義務としている。
もう一つ問題になるのは,相続後,預金の有無,取引経過の開示義務である。先代の社長が亡くなって,預金の状況を知りたいということはよくある。かつては,共同相続人全員のはんこを求める金融機関が少なくなかった。しかし,それでは相続問題は進まない。そこで,最高裁はこの点についても金融機関の開示義務を認めた(判タ1290号132頁)。
一般の人から見ると当たり前じゃないかということになるが,法律的にはけっこう問題が多かったのだ。簡単に言うと,相続人はそれぞれ独立しているため,たとえ,父の財産であっても,相続人個人の財産だ。故人の預金を開示することは他の相続人財産を開示することになって,プライバシーの侵害になると言うのである。これはかなりややこしい。
ともかく,最高裁は預金にはいろいろ事務作業を伴っているから,委任事務もあるとしている。この付随的な委任事務に基づいて遺族に開示請求を認めた。
尚,法律実務から言うと,過去の取引全部がほしいことが多いが,手間が大変なので銀行はいやがる。いきなり,コンピューターから引き出した膨大な資料を手渡されることがある。また,「払戻請求書」,「振込依頼書」等の伝票類もほしいが,手間がかかるので銀行はいやがる。