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№369 CRA(地域社会再投資法)

№369 CRA(地域社会再投資法)
 金融検査について最近勉強を始めている。
 米国CRA(Community Reinvestment ACT)、地域再投資法特徴は銀行に対して社会的責任(responsibilities to the public )を求めている点だ。金融機関に対する監査は自己の支払能力や収益力の維持ということが問題視される。金融の経営危機は経済の危機に直結するためだ。監査機関は信用リスクに対する調査を行う。

 「地域再投資」という言葉が示すとおり、この法律の下では、「現在の融資金額に満足しないで, 融資先を掘り起こしたり,あるいは融資条件を緩和したりといった努力がそこでは期待されているのである。そこでCRAなどを政治社会的目的による規制で他の金融機関に対する規制とは,独立した規制だとみる論者もいる。」ということだ。

 我が国のリレーショナルバンキングの考えもこの米国の銀行規制のあり方の影響を受けている。米国にはこの外にも地域開発法人(CDC)とか、中小企業庁(SBA)の保証制度とかいろいろある。米国の中小企業政策の多様性は日本の中小企業政策の影響も受けているそうだ。

 ともかく、CRAの下では、積極的な地域開発の担い手であることを期待している。銀行は検査官によってCRAの観点から監査され、ランキングされる。ランクが悪ければ新しい出店計画に対して許可が下りにくくなる。社会的貢献に対しては市民からの意見が述べられることになっている。市民団体が銀行を監視するというのは実に驚くべきことだ。

 この法律は1977年10月にジミー・カーター民主党政権のもとで成立した。その後、レーガンや、ブッシュなど保守政権のもとで日の目を見なかったが、クリントン政権になって脚光を浴びてきたようだ。CRAに不熱心だという理由だけで支店の開設が拒否された例が出ていらい、たかをくくっていた銀行側もかなり熱心にCRAに取り組むようになったらしい。

 本来自由主義的傾向の強いアメリカで社会的視点から規制を行うことは原理に反する面もあるだろう。しかし、こんなおもしろい議論があるらしい。ちょっと長いが引用する。

「銀行家のなかにもCRAが求めていることは利益を追求する銀行の立場と矛盾しないと主張する者は少なくない。ある地方の貯蓄銀行の会長はつぎのように述べている。CRAの順守による公衆のイメージ改善はその銀行への関心を高めるし,慈善団体への参加は地域社会の指導者との接触の機会を増やしビジネスの接点ともなる。また,CRAの要件への関心は顧客の要望に従業員がより関心をもつことになり,そのための記録は経営者にとって銀行の社会における位置をモニターする有効な方法となる。さらにCRAにおける上位の格付けは,自治体・組合を始めその他の自治的な組織からヒジネスを獲得する上で有利な要因となる。事実,自治体のなかには公金の預託にあたって,金融機関に高いCRA格付けの取得を求める動きがある。すなわち1990年7月以降の格付けの公表の遅れや依然として上位の格付けを得ることが容易であることに業を煮やした住民運動家の要求もあって,民主党支配下にある大都市のなかには,連邦法あるいは州法でのCRAの格付けの高い金融機関にその公金を預託する動きが表れている。CRAを順守することが金融機関の利益にダイレクトにつながるような社会的な枠組みを構築する試みも始まっていると言えよう。」(「CRA(地域社会再投資法)について」福光寛、立命館経済学第42巻・第1号)