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№203 取締役の責任

№203 取締役の責任
 中小企業の社長は,会社は俺の物だという意識が強い。強いというか,全く疑っていない。しかし,社長は会社に「雇われている」存在でしかない。正確には準委任関係なのだが,使われている身であることに変わりない。ここのところを理解せず,公私混同したり,会計をおろそかにする企業は伸びる気がしない。

 取締役は会社に対して善良な管理者としての注意,善管注意義務を負う(会社法330条、民法644)。さらに、会社法355条は「取締役は、法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行わなければならない。」と定める。忠実義務は善管注意義務を敷衍し、かつ明確にしたものであり特別義務を強化したものではない(最判昭45・6・24)。

 この忠実義務は非常に広範な裁量を前提としているため,損した場合全てに責任を問われることはない。これは経営判断の原則と言われているものである。しかし,社長はオールマイティだけに,会社の全ての問題について責任を問われうる。

 その問題の一つに会社が法律に反して,違法な行為をした場合にどのような責任を問われるだろうか,という問題がある。法令違反と忠実義務との関係については、取締役を名宛人とされた法令に反する場合と会社を名宛人とした法令に反する場合とでは取締役の責任の構造が異なる。判例はいずれも法令遵守義務に含める(野村證券損失填補事件、最二小平12・7・7)。

 法律には違反していても会社の「利益」になる場合もある。冒険的行為は経済社会の中では許されるのだろうか。また,法律と言ってもいろいろあり,義務の内容の単純ではない。法律違反というだけで全ての責任を問われてしまうという訳でもない。法律の分析は不可欠であり,この分析にはどのような弁護士でもできるわけではなく高い専門性と能力が要求される。