№1727 事故に対する経営者の刑事責任
今月の「ビジネス法務」にシンドラー社エレベーターに関する刑事事件の論評があった。マンションエレベーターの誤作動により男子高校生が死亡するという悲しい事件があったが、この死亡事件について会社役員の刑事責任が問題になった。
この事件の判決は平成29年9月29日に出されているので、この論評は驚くほど早い段階の原稿ということになる。判決はシンドラー社従業員は無罪、エレベーター保守点検業務を行うSEC社の代表取締役は有罪だった。
死亡事故のような重大事件に対してその原因を作った者は処罰される。刑事事件は個人に対する社会的非難なので、すぐれて個人的だ。そのため企業のトップが刑事責任を問われることについては企業が大きくなればなるほど難しくなる。
解説によると今回の事件で問題になったのはブレーキの構造だそうだ。シンドラー社のブレーキは通常のブレーキとは異なる構造になっているため、保守点検がやりにくい構造になっていたらしい。エレベーターの保守点検業務を行う会社はシンドラー社のこのわかりにくい構造を正確に把握するべき義務があった。
先に述べたように役員の場合、直接保守点検業務を行うわけではない。刑事責任が問われるのは業務管理の在り方となる。誤った業務管理が放置され事故を発生させたのであれば刑事責任が問われることもありうる。その要素は次のものだという。
① 人の生命、身体の安全にかかわる業務であること
② 社内外に事故の予兆となるような事件が相次いでいること
③ 安全にかかわるコンプライアンス、社内の情報共有、予防体制が組まれているかどうか。
④ 法に従った業務が行われているかどうか
このあたりは製造物責任の対策によく似ている。
最近は高齢者関係のビジネスも増えている。高齢者では事故が発生しやすい。その分、高い注意義務が存在する。このあたりも場合によっては刑事責任も考慮に入れた厳格な管理体制が必要かもしれない。
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