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№2424 退職勧奨って違法?

 解雇は正当理由が無ければ無効となる(労働契約法16条)。能力が低く,何度言っても改善しない場合にはやむを得ない場合もある。その場合は,教育の努力,配置換え,重なる勧告,減給などの段階的処分など,雇用側にかなりの努力が求められる。
 
 解雇にいたる様々な段階で使用者としては労働者と話し合いを続けるのが一般であろう。このような退職を求めること,退職勧奨は許されないだろうか。

 

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拒否した社員に説得を続けることは違法ではない
 労働契約も契約なので辞職を求めて交渉することは問題無い。しかし,雇用契約で拘束された関係の中で行う退職勧奨には限界がある。程度が超えれば違法となって賠償問題が生じる。
 多くの場合,執拗に退職勧奨を続けることは違法となる。しかし,いったん拒否した社員にさらに説得を続けることが直ちに禁止されるわけではない。ようは程度の問題ということになる。

 

退職勧奨はパワハラとよく組み合わされる
 退職勧奨する場合,本人に対してどうしても欠点を告げなければならない。前提として繰り返し指導が行われているはずだ。時には強い叱責があるかもしれない。これらがパワハラだと反論されてしまうことも普通にある。

 職場では指揮命令があったり,仕事に習熟するための教育などが行われる。時には強い調子で叱責することも必要だ。これらが全てパワハラとなるわけでない。根拠を示し,強い調子だが,怒鳴るわけでもなく,本人の自尊心を尊重しつつ向上心を引き出す方法に習熟する必要がある。

 

横浜地裁の事例

横浜地裁R2.3.24判決は退職勧奨について次のように指摘して違法と判断した。退職勧奨について悩んでいる事業者には参考になるだろう。長いけれども引用する。

「ところで,退職勧奨は,その事柄の性質上,多かれ少なかれ,従業員が退職の意思表示をすることに向けられた説得の要素を伴うものであって,一旦退職に応じない旨を示した従業員に対しても説得を続けること自体は直ちに禁止されるものではなくその際,使用者から見た当該従業員の能力に対する評価や,引き続き在職した場合の処遇の見通し等について言及することは,それが当該従業員にとって好ましくないものであったとしても,直ちには退職勧奨の違法性を基礎付けるものではない。しかし,B部長による退職の勧奨は,上記のとおり,原告が明確に退職を拒否した後も,複数回の面談の場で行われており,各面談における勧奨の態様自体も相当程度執拗である上,本件全証拠上,確たる裏付けがあるとはうかがわれないのに,他の部署による受入れの可能性が低いことをほのめかしたり,原告の希望する業務に従事して被告の社内に残るためには他の従業員のポジションを奪う必要があるなどと,殊更に原告を困惑させる発言をしたりすることで,原告に対し,退職以外の選択肢についていわば八方塞がりの状況にあるかのような印象を,現実以上に抱かせるものであったというべきである。また,B部長は,原告に対し,単に業務の水準が劣る旨を指摘したにとどまらず,執拗にその旨の発言を繰り返した上,能力がないのに高額の賃金の支払を受けているなどと,原告の自尊心を殊更傷付け困惑させる言動に及んでいる。以上の事情を総合考慮すれば,上記面談におけるB部長による退職勧奨は,労働者である原告の意思を不当に抑圧して精神的苦痛を与えるものといわざるを得ず,社会通念上相当と認められる範囲を逸脱した違法な退職勧奨であると認めるのが相当であり,不法行為が成立する。そして,B部長の同不法行為は,被告の業務執行に関してなされたものといえるから,被告は,この点について使用者責任を負う。」

 

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