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№2387 官公庁の圧力により役員を退任した事例

 官公庁を相手に事業を行っている事業者が役所の政策に異を唱えた場合、役所側は陰湿な嫌がらせを始める場合がある。そのため、例えば土木、建築関係の事業者はなかなか役所に逆らえない。

 本件は国土交通省発注のコンサルタント事業がいわゆる天下り先に限定されていることに異を唱えたコンサル業者の役員に対して、関東地方整備局担当者がこの役員を辞めさせるよう圧力をかけた事例だ。裁判所は圧力を認定して528万円の賠償責任を認めた(東京高裁H31.4.10判時2428号4頁)。

 

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民間事業者の締め出し
 本件では会計法等に基づけば、民間事業者の競争入札に付さなければならないところ、公益法人に対して随意契約していたこと、入札資格が厳しく民間が閉め出されているという政治的意見を持ち、関係資料を請願活動の一環として民主党の前原議員に渡したことから問題になった。さらに、明治から大正にかけて建設された第2海堡保存の要望を申し入れた。

 

国土交通省による恫喝
 これらの行為に対して、関東地方整備局は原告経営の元請会社(公益法人)を通じて、「関東地整の指示で●●に仕事は出せない」と通告した上で、●●の取締役を呼び出してけじめをつけるよう示唆した。さらに、第2海堡保存についても、関東地整の役職者は「厳しい口調で」原告の「辞表を持ってこい」と威嚇した。こうした事情から会社は仕事を失う危機を募らせ、原告の代表取締役の地位を解任した。

 

判決は国交省の役人の行為を違法と断じた
 「本省職員が所轄の業務(コンサルタント業務の発注)に関して、権限もないのに、自ら又は所轄の公益法人を介して、民間企業に役員の選解任を自発的な形で実行するように求める行為は、国賠法1条に違反する」但し、会社に対する賠償は認められるが個人には認めなかった。
 海堡保存活動については、民間企業の役員選解任に対する違法な介入行為である上、請願権を認めた憲法16条に違反するとして、個人に対する賠償責任を認めた。

 

役所の横暴
 建築や土木関係の事業者が国や自治体の政策に反する活動をするのはかなり勇気が必要となる。一回目のいやがらせは法律や規則などを使って回避できたとしても、その後のいやがらせを断ち切ることはかなり難しい。これは役所の文化になっていて、陰湿な対応をしばしば垣間見ることになる。

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