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№71 自己株式(金庫株)

 中小企業にとって自己株式が役立つのは相続の時だろう。

 経営者にとって株というのは不思議な存在だ。上場に際して億のお金が一瞬にして集まったときには魔法でも見ているようだろう。借りた金は返さなければならないし,ものを売らなければお金が入らない。株はただ発行するだけだ。こうした株のうまみを利用しているのが自己株式だ。上場企業や,M&Aが繰り返されている中企業,大企業にとって自己株式はかなり使えるようだ。中小企業の場合,M&Aぐらいはあるかもしれない。また,社員に自社の株を譲って会社への帰属意識を強めるというのもあるかもしれない。しかし,中小企業にとって自己株式が役立つのは相続の時であろう。

 社長が亡くなったら,社長の持っている株は相続されることになる。多くは長男など後継者が株を相続することになるだろう。しかし,業績のよい中小企業株は意外と値段が高い。後継者は株という財産のためにふくれあがる相続税の対策も考えなければならない。兄弟が何人かいて相続権を主張した場合,後継者は株を貰うために他に財産を受け取ることができなくなる。それどころか,株をとったばかりに,代償金を他の相続人に支払わなければならなくなる。

 業績のよい会社を相続した場合,後継者は相続税や,他の相続人への支払いのためにお金が必要になる。ところが,株しか相続しないと,それを支払う現金がないということになるという困った事態になるのである。会社が株式を買い取って資金を調達するか,あるいは相続人には株式を相続させて,それを会社が買い取っても良い。要するに,現金のかわりに株を活用するのだ。

 尚,自己株式の取得にはいろいろ考えられるが,株主総会の決議に基づいて取得できる。特別決議があれば特定の株主からも取得できる。譲渡制限株式であれば,売り渡しを求めることができる。この場合,定款に定めが必要である。この場合,手続き的には簡略化されており使い勝手はよい。