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№2192 国税不服審判逆転のポイント

№2192 国税不服審判逆転のポイント

税理士と弁護士とのすみわけ
 日常的税務は税理士の先生が対応するが,時には「更正決定」という形で問題が起こる。税務署相手に争う場合,再調査,国税不服審判,税務訴訟となるが,紛争時には弁護士が登場し,手続きが進むに従って役割が大きくなる。

 税の問題は弁護士でも無視できないことが多い。私は利益あるところ税がある、財産移転があるところ税があると思って注意している。

保証債務の特例
 社長が個人の不動産を売却して,利益を上げれば譲渡所得税がかかる。保証人として個人の不動産を売却して,会社の借金を支払っても譲渡所得税はかかる。しかし,保証債務を履行しても,会社が倒産などして会社に対して支払った保証債務額を求償できない場合は保証債務の特例と言って,譲渡益は発生しないとされている(所得税法64条2項)。

保証債務の特例を否認した事例
 国税不服審判手事例(平成25年4月4日裁決)では,敷金返還債務を連帯保証していたところ,不動産売却が同連帯保証債務返済と相続税支払いの2つの目的を兼ねていたため,税務署が特例の適用を否認した。相続税の支払い目的があるから所得税法64条2項の「保証債務の履行のため」という要件が当てはまらないというのだ。

国税不服審査で逆転
 しかし,審判所は不動産の売却と連帯保証との支払い客観的な関係(牽連性)があればよい,売却代金で相続税を支払ったところで,牽連性さえあれば特例は認められるとした。もともと,保証債務は支払ってみたものの,当の主債務者が倒産していたのでは,不動産の売却益は自分には残らない,だから所得税は発生しないという考えなのだから,このことは至極当たり前だ。なんで,課税庁がこんな更正決定したか不思議なくらいだ。

あらかじめ証拠を固めておいたのがよかった
 この事件は実は,連帯保証関係が本当にあったのかどうか,かなり怪しい事例だった。それでも,納税者側が勝利できたのは,不動産処分時に納税者側に周到な証拠固めがあったからだ。

 ① 不動産を売却した際に,売買代金は弁護士の預かり口座に分離して保管された。そして,この分離したお金から連帯債務を弁済したのだ。つまり,不動産の売却代金と連帯債務の支払いに分離したお金を流れを作ったので関係性がよくわかる構図となった。

 ② 不動産売却に際して,関係者が集まって,個人財産を売却する目的は連帯保証債務の目的であるという合意書をわざわざ作った。

 ③ 領収書にはわざわざ,連帯債務支払いとして,と記載した。

逆転のポイントと事件の教訓
  本件は保証債務の特例が争点となった。租税手続きには様々な特例が存在するが,特例を選択するという特別な行為が納税者側に要求される場合には,立証責任は本来納税者側にあると考えなければならない。本件は特例適用のための立証を強くして諸要件に必要な証拠を売買段階で用意していったことが功を奏したと言える。

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