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№903 子会社の債務処理

№903 子会社の債務処理
 別部門の事業を展開するにあたって子会社を設立することはよくある。独立した事業とすることで、担当者は責任を感じて意欲的になるだろうし、リスクがあればそれを最小限にとどめることもできる。会計上の処理はめんどうさいが新規部門の事業を立ち上げるにはいいのではないかと思う。

 ところで、子会社がうまく行かず、負債を抱え込んでいた場合はどうしたらいいだろうか。子会社を破産させれば債務は会社とともに消滅する。しかし、実際には親会社の信用に関わったり、親会社の社長が連帯保証していたりして、簡単には消えることはない。

 さらにやっかいなのは、子会社の負債を親会社が肩代わりすると、子会社にとっては贈与となったり、親会社にとっては寄付金扱いになって節税という視点からは問題が残る。こうした場合、投資損失、繰越欠損金といった処理がよく利用される。これらの処理は専門性が高いために私たち弁護士ではお手上げだ。

 たとえば、子会社に多額の損失がある場合、親会社が子会社に出資して、債務の救済に当てることができる。この場合、親会社としては子会社の株を引き受けるため会計上の損失はない。法人税基本通達9-4-1というのあって、一定の場合に子会社の増資は寄付金に該当しないとされている。

 つまり、子会社の負債を支払うために親会社が相当額を出資して子会社を救済することは可能だ。さらに、その後、子会社が解散、精算したらどうなるだろうか。子会社の株式は無価値になって、親会社は損失を被る。この損失はどうも資本損失として損金処理されるらしい。

 そうすると
 ① 親会社が子会社の新株を引き受けて投資する。
 ② 子会社は増資して得た金員で借金を支払う。これにより保証債務も消滅する。
 ③ 子会社は精算、解散する。
 ④ 親会社は投資額を資本損失として損金処理する。

 これは実に巧妙な方法で、①で増資払込金として処理し、寄付金などの扱いは避けられる。②で債務は消え、代表者は保証債務を免れる。④で支払った分だけ損金処理ができる。

 しかし、そうは問屋が卸さなかった。これは余りに不自然だというので国税庁は出資金相当額の損金処理を許さなかった。

 法人税法132条2項には「行為計算否認」というおよそ法律とは呼べない恐ろしい条項がある。これは同族会社の法人税で不当に法人税を免れる目的がある場合にはその「行為、計算」を否認し、無視して課税できるというものだ。税法という権力的な行為にこのような一般条項があるというのは驚きだ。国税不服審判所も行為計算否認を根拠に、一部課税庁の処分を認容した(H21.9.16、採決事例集№78、376頁)。