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№1521 中国労働法展開の歴史

№1521 中国労働法展開の歴史

 1990年以前中国社会主義は私たちの国とは全く違ったものだった。ほとんどすべては国営企業だったし,労働者は一つの企業で一生過ごすというのが普通だった。お父さんが勤めていた会社に息子が勤め,何世代もわたって生活が保障されるというのが中国社会主義の理想だった。こうした終身雇用を彼らは「鉄飯椀」と呼んでいる。

 1990年代に入って改革開放政策が導入された。ここでの大きな問題の一つが「鉄飯椀」制度の撤廃であった。これは労働者の生活を不安定させるものであるし,何よりも社会主義の根幹にかかわるものだ。確かマルクスレーニンは不況や失業は資本主義が逃げることができない病のように言っていたように思う。当然大きな軋轢があったことだろうし,政府も慎重だったに違いない。

 しかし,中国政府は国営企業を民営化し,労働者の職場も再編成されていった。この時に労働は労働契約によって行われるということになった。労働を「契約」ととらえることに当時の中国人達はさぞかし違和感があったことだろう。1995年には労働法ができあがった。しかし「契約」というのは締結の自由もあれば解約の自由も認めることになる。当時,中国での解雇はかなり自由だったのではないだろうか。私のしりあいの社長も当時を振り返って役に立たなければ「不用」とひとこと言えば解雇できたと言っていた。

 しかし,これでは社会不安をあおる。労働は労働者の生活と直結している。宝石や株の売買などのように自由に売り買いされたのではたまったものではない。そこで,中国では労働契約を徐々に制約する方向で政策を推し進めてきた。2008年労働契約法の制定はその一つだろう。この労働契約法は2013年には改正されている。

 また,労働者の福利厚生という点でも中国は整備を始めた。現在中国には社会保障制度を徐々に整備している。社会保険には養老保険,失業保険,医療保険労災保険,育成保険などがある。住宅保障のための住宅積立金がある。これらについて一部は企業が負担することになっている。この比率が各都市でばらばらで大きな問題になっているらしい。

 ちなみに上海の社会保険料の企業負担比率(企業:個人)は次のようになっている(2015年)。
 ① 養老保険 21.00%:8.00%
 ② 医療保険 11.00%:2.00%
 ③ 失業保険  1.50%: 0.50%
 ④ 生育保険  1.00%: 0%
 ⑤ 労災保険  0.50 %: 0%
 ⑥ 住宅積立金 7.00%:7.00%
              ■ 全体 42.00%:17.50%