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№916 税理士賠償保険が認められた事例

№916 税理士賠償保険が認められた事例
 ある税理士が相続税の更正請求手続きを法定の期限内までにしなかった。おかげで、この税理士の依頼者は相続税の還付を受けることができなかった。約1132万円の賠償をすることになった。この賠償金は税理士職業賠償保険でカバーできるのだろうか。

 保険会社は免責約款(平成19年改訂前)を理由に保険金の支払いを拒絶した。
 ちょっと考えると、こんな時に保険でカバーできなくていつカバーするんだと言いたくなるような事件だ。この税理士が保険会社相手に裁判したのも無理はない。

 一審、控訴審とも税理士側の勝訴となった(東京高裁H21.1.29判タ1306、301号)。

 免責約款は「納税申告書を法定期限までに全部又は一部を納付しなかった場合の本税」「納付すべき税額を過少に申告した場合に修正申告・更正・決定等により納付する本税」などに関する賠償については保険金を支払わないとしていた。

 免責約款は「本税」に関する場合について定めたに過ぎない。一方で本件では「還付」の手続きを怠った場合であるから、免責約款の場合ではないというのである。
 ちょっとわかりにくいが、免責約款→本税の問題、本件賠償→還付の問題、と場面が異なるというのである。

 本税の場合は手続き自体に不正があって本税を修正しなければならなくなった事例であり、還付の場合は本税の手続きそのものは問題にせず、納付後の手続きの問題であること、還付手続きに不正があった訳ではない点で異なる。

 これはかなりややこしい。
 要するに保険約款は文言通り厳格に解釈されるから、簡単にあきらめないでよく調べてみることが大切だということが実務的には教訓になろうか。それにしても、税理士の弁護士は難しい問題をよくがんばったと言える。