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№577 下請けの責任、元請けの責任

№577 下請けの責任、元請けの責任
 建設現場では元請けの支持の下、多くの下請け業者が活動する。現場での事故については一体誰が責任を負うだろうか。元請けだった責任があるはずだ。
 
 請負契約の特徴は、請負人が独立して責任を負って仕事を完成するところにある。注文者は頼むだけでよい。この独立性こそが単なる労働者と違うところだ。雇用関係の場合は使用者は指揮命令権を持ち、労働者はそれに拘束される。しかし、請負の場合は注文主には指揮命令権はない。あくまで請負人が独立して仕事を完成させる。
 
 とは言っても、建設現場などでは元請けの監督がいてかなり厳しく指示を出し、皆ついて行くのに必死だ。そんな建設現場で事故があった場合には元請受け人にも何らかの責任あるだろう。
 
 事例は海上埋立工事の作業船が漂流した結果、神戸空港連絡橋に衝突して2億6112万3000円という損害が発生した事例だ。作業船船長には漂流対策する義務があった。当然、船主会社には責任はある。では、元請けであるJV(特定建設工事共同体)にはどうだろうか。
 
 この事例はJVが、神戸市に対しとりあえず2億6112万3000円を支払い、その全額を船主会社に求償した。判決は船主会社に7割の責任を認め、3割はJVが負担するべきとした。判決はJVは船長に対し、事実上の指揮監督関係があったため一部について責任を認めたのである(大阪地裁H21.10.21)。
 
 このように、元請けであっても責任が生じる場合がある。
 問題は負担割合であるが、「加害者の加害行為の態様及びこれと各使用者の事業執行との関連性の程度、加害者に対する各使用者の指揮監督の強弱などを考慮して定められるべきものと」とされている(最高裁H3.10.25判時1405号29頁)。
 
 この事例は先にJVが支払ったため問題になった。船主が先に支払った場合に船主はその3割をJVに請求できるかというと裁判所は別の判断をしたかもしれない。それは、JVには払ってしまった分だけ損を引き受ける覚悟があったと思われがちで、その分だけ引かれたとも考えられるからだ。ある種の公平感というのは現実の法律実務にはある。