№331 弁護士と専門分野
弁護士は様々な専門分野を扱う。でも、分からないことが多い。
医療過誤訴訟などはその最たるものだ。たとえば急な腹痛が起こって急いで病院に行ったところ、その日のうちに亡くってしまった事例がある。急性腹症といわれるカテゴリーで、腹膜炎などを併発していれば開腹手術して、炎症部分、壊死部分を切り取る外はない。しかし、我々は医師ではないから本当のところは分からない。
建築紛争があったとする。せっかく建てた工場だが、地盤沈下が起こった。調べてみるとどうも、地盤に水が多く含まれ圧密沈下が起こったらしい。転圧と呼ばれる土地を固める作業に欠陥があったらしい。でも、私たちは建築のことも、土木のことも分からない。
土地境界紛争という単純な紛争であっても分からないことが出てくる。たとえば、山林の境界などはどうしていいか分からない。字図、航空写真、地図、林班図、古い道路の図面、地元住民の聞き取りなどいろいろな情報を駆使して境界を確定していくのだが、細部の詰めになると弁護士はお手上げだ。
行政分野でも同じだ。行政は法律に基づいて行われる。しかし、細かい規則になると分からない。税務関係は典型的な例だ。規則が細かく存在し、さらに運用例もある。
それでも、我々は専門分野をあつかった訴訟を担当する。もちろん、全てのことを分かる必要はない。建築紛争を扱うからと言って、建築のことを一から十まで知る必要はない。何が問題かを単純化し、その問題に絞って勉強していく。
専門分野に相当する事件にぶつかった場合、依頼者が驚くほどの知識を持っていることがある。それは裁判に役立つが、裁判そのものではない。重要なのは争点を明確化することである。この争点で勝てれば、裁判は勝つという争点を明確化することだ。
この操作は弁護士の専門分野に属する。それは、文献によるものではなく、依頼者や専門家との対話によって整理される。整理された論点を文献で裏付けをとり、裁判に臨むのである。