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№156 破産と賃貸借

中小企業法務 №156 破産と賃貸借

 破産と賃貸借の関係はけっこう複雑だ。このブログを機会に簡単にまとめてみたいと思う。
  ビルのオーナーが破産したら賃貸物件はどうなるか。テナントが破産したらどうなるか。

1. 破産
① 貸主の破産
  破産法53条では,双務契約(お互い義務を負う契約,賃貸借契約もそうだ)は契約を解除できる。しかし,借主にしてみれば現に建物があるのに利用できないのは不合理だ。被害も大きい。
  そこで,破産56条は貸主(破産者)側の契約解除権を制限している。つまり,借主は破産後も利用できる(但し,対抗要件が必要)。
② 賃借人の破産
  賃借人が破産した場合は,これまでは解除原因となった。しかし,立ち直りを考慮して民法が改正され解除事由から除外されることになった。従って,家主は簡単には解除できない。そのため,破産法53条が適用されるようになり,解除するかどうかは破産側の判断ということになる。
  この場合,貸主の解除権が制約されるので,賃料債権は財団債権となる。

2. 敷金
① 敷金は明渡完了までは請求できない。オーナーが破産したら敷金は返ってこないのではないか。そこで,破産法70条では,破産管財人に対して賃料を寄託(どこかに預けておくこと)を請求できる。そして,明渡完了後,寄託されたお金を敷金として取り戻すことができる。
② 破産物件としてビルが売却されてしまうと新所有者は新貸主となる。この場合,新貸主は敷金返還する義務を承継する。

3. 競売
① 抵当権などが実行された場合はどうなるだろうか。
  抵当権の登記と占有の開始(入居の時期)とどちらが早いかで決まる。登記の時期が早ければ,落札した新所有者に対抗できない。競売によって権利を失うことになる(民事執行法59条2項)。新所有者には敷金を請求できない。
  入居の時期が早ければ,賃貸借は維持できる。
② 新所有者が優先する場合,建物賃貸借では買受時から6ヶ月間の明渡猶予期間後,建物を明け渡すことになる(民法395条1項)
③ 短期賃貸借制度は廃止された。
 
4. 相殺
① 破産前から持っている債権と賃料債務の相殺は可能である。
② 明渡前の場合は敷金と賃料との相殺はできない。
③ 前渡金がどうなるかはちょっと整理したいが,時間切れ。