今月のハーバードビジネスレビューは「マーケッティングにAIを実装する」という特集だ。今や大企業ではAIを自社経営にどう活用するかが大きな課題となっている。ディープラーニングが開発され,AIの可能性はいっきに広がった感がある。AIに関する論文は中小企業経営にも役立つ。
AIが人間の自由をひろげる
IOTがいくつも実践され,高度な通信技術やデータ処理技術は人と物との有機的な連携を徐々に密にしている。「自由」を人の認識や活動領域の拡大と定義するならば,自由は確実に拡大している。AIも人の思考を助け,より早く,より適切に決断する人や企業の自由度を高めてくれる。
AI活用と事業利益
もっともAIの活用は発展途上で,必ずしも事業利益に直結しているというわけでもなさそうだ。Eva Ascarza氏らは,AIをマーケッティングに活用する場合に侵しやすい間違いについていくつか指摘している。
正しい質問ができていない
ある通信会社は「どの顧客が最も解約しそうか」という問いをAIに行った。AIは学習し,適切に問いに応えるようになったが,事業収益に連結していなかった。すでに解約を決断している客に投資しても無駄になるだけだったのだ。そこでエバ氏は問いが間違っていたと指摘する。「解約を考えている顧客のうちプロモーションに反応する可能性が最も高い顧客は誰か」という問いにすべきだったというのである。
正しい場合の価値と間違った場合のコストの差異を認識する
AIの予測は100%ではない。この場合,正しく判断した場合の価値と,誤った場合のコストの評価が大切だという。例えば,予測が正しくても低利益商品についてであれば大きな利益を生み出さない。予測が誤り,高利益商品の機会損失をもたらした場合にはコストは大きい。つまり,事業収益を上げるという究極の目標に対して,予測の正確性は評価されなければならない。
粒度の細かい予測を活かせていない
AIは長年人間が勘に頼ってきた判断をより正確に,圧倒的な速さで行う。この「粒度」の細かさをマーケッティングに活かすことで,競争上の優位に立つことができるはずだ。つまり,大量のデータ処理にあわせて,消費者を個別に評価を短時間で行えたりする。短時間の個別処理が,多くの無駄を省き,顧客の個性に対応した事業展開を可能にする。
フレームワークの活用
AIに対する問いは常に精錬されなければならない。問いは次のように具体化されていく。③に至ると,「解約を減らすか」という問いは述べられなくなっている。
① どのように解約を減らすか
② 解約を減らすためには,リテンション(顧客維持)プロモーション予算をどのように分配するか。
③ X百万ドルの予算があるとして,このリテンションキャンペーンでおの顧客を対象とするべきか。
こうした,AI活用のための思考方法は,AIならずとも,わたくしたち自身の学習にも役立つ。