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№1527 成熟した業界で必要な戦略

№1527 成熟した業界で必要な戦略

1. 成熟した業界,飽和感のある業界とは何か
 マイケル・ポーターは著書「競争の戦略」の中で「業界の成熟期(industry maturity)」について1章もうけている。「業界=代替可能な商品を取り扱う事業の層」は商品の発生から衰退までのライフサイクルに分析できる。

 さしずめ,日本の部品産業などの製造業などは高度経済成長期の急激な成長段階から成熟期に入り,ひょっとしたら衰退期に入るかも知れないような状況下なのだろう。あるいは宝石業界などのような古くからある産業も業界としては成熟しており,限られたシェアを分け合う関係にあるのかもしれない。

 国内において,市場が成長しきり,消費者層の範囲もだいたい特定され,さしあたって顧客層ののびは期待できない状況では,この限られた顧客層をめぐって企業間の争奪戦が行われることになる。経営戦略もシェア競争の激化に対応したものとなる。

 パイの全体像が見えてきて大きくなりそうになければ,奪い合いが始まるのは必然的だ。競争の結果,宣伝も行き届き,顧客の知識も向上し,競争は激しさを増す一方ということになる。

2. 成熟した業界での基本戦略
 成熟期における企業戦略はいくつか存在するが,ポーターの考えはこんな風に分類できないだろうか。
 ① すでに持っているパイ,つまりシェアをいかに維持するか。
 ② すでに持っているパイの中でいかに利益を多く上げていくか。
 ③ それまでにない領域にシェアを拡大するか。
 
 ポーターはこうした企業戦略はそれまでとは全くことなった経営技能が求められるという。それは,組織全体のマネジメントの精度を高めていく作業となる。ポーターはこれを「利益意識(financial consciousness)」を高めこと,それを正確なマーケッティング,精度の高い原価分析・価格政策,合理的な製造工程などなどあらゆる面(dimension)においてそれを実現することが重要だという。

 「成熟期の事業に必要なのは,空疎な『創造性』よりも,こまかく気を配り,実行をあげることなのである」

 たとえば,日本の製造業は製品の高度化を推し進めている。また,ジャストインタイムというようなサービス業に近いような業務形態に変わっている。顧客のあらゆるクレームにも対応している。これはポーターの言うところの成熟した業界,市場では「競争の重点がコストとサービスに移る」という現象を示しているということだろう。

 ともかく,自社のなかに既に確保しているシェアを大切にし,そのシェアの中で利益率を高めていくことは成熟期における企業戦略の必須の条件であると言えるだろう。成熟期に入った製品を扱う事業者は緻密な経営計画を持たなければ生き残ることはできない。

 その緻密さをどのように担保するかは勉強すること以外にない。その勉強は講演のみならず,事業者同士でともに学び合うようなところで勉強することも必要不可欠だ。さらにはそれが組織全体の学習,ポーター流の「利益意識」を組織に浸透させていくことが求められる。