№1526 ばあさんの子どもの頃
柿は渋柿,秋になるとたくさん実をつけたので,とって蔵の軒につるしたらしい。甘い物に飢えていたばあさん達は待ちきれないでとって食べる。柿をとるような竿があってそれでとれたらしい。渋柿は先の方から甘くなる。最初は甘くてもいつの間にか渋くなり困ったそうだ。
柿は甘い。柿の実をすりつぶし,芽を出したばかりの麦を混ぜ,あたたかくして一晩寝かせておく。翌日,絞り汁を煮詰めていく。そして,水飴ができあがる。砂糖が高価だったということでこの水飴はごちそうだったのかな。
蔵は怖いところだ。しかられると蔵に放り込まれる。蔵には2階の窓がただ一つ。薄暗く気味の悪いところだ。しかられて最初はエンエン泣いていたのだが,それも疲れたばあさんは2階にあがる。
2階には代々,この家の女たちが嫁いだときに持ってきたタンスが置いてあったそうだ。これはお母さんの,これはおあばあさんの,これはそのまたおばあさんの,いくつかタンスがあったらしい。
タンスには古い着物や,巻物が入っている。タンスの引き出しをあけ,古い着物を見るのが好きだった。巻物にはいろいろな絵が描いてあり,小さな女の子が手まりを持っている絵が大好きだった。ひな人形もあってそれを取り出しては蔵の時間を楽しんでいた。
あるとき,ただ一つの窓を眺めていたことがあったそうだ。蔵の窓には金網がはってある。どうしたことかその端がめくれあがっていた。そこから,なんと大きなアオダイショウが蔵の内に入ってきたそうだ。巨大な蛇をばあさんは金縛りになったように眺めていた。アオダイショウは蔵に入りそのままどこかに行ってしまった。
「こわかったんじゃないの」
「それが,ちっとも怖くなくて,『あっ』ってただ驚いて見てただけだったねぇ。」
このばあさんの話は7、80年ぐらい前の話だ。