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№30  サプライ「ズ」チェーン

 1980年代から90年代にかけて,日本式経営は国際的な注目を浴びてた。ジャストインタイムであるとか,カンバン方式であるとか「カイゼン」であるとかトヨタの生産方式に世界が注目した。下請け,系列など大企業と中小企業のネットワークのあり方も日本式経営として注目されたのである。
 我が家のトイレで長く読まれていた「なぜトヨタは人を育てるのがうまいのか」という本の中に下請けとの関係で次のように記載されている。「強者の論理を振りかざして『安く買う』のではなく,協力会社とともに知恵を絞って『どうすれば安くつくることができるか』を考えて改善に取り組み,その結果として『安く買う』のがトヨタ流だ。」(同書127頁)。最近の大企業では下請けと呼ぶのをきらい,協力会社と呼ぶそうだ。このような「ともに知恵を絞って」というのは個々の企業の独立性が高い欧米の企業にとっては文化的違いを感じさせるのだそうだ。日本的長期下請け関係の中で下請け企業(サプラヤー)が鍛えられ,中小企業全体の質を向上させているというのである。
 その最も重要な要素がジャストインタイム(JIT)なのだろう。在庫を徹底的に削り,必要以上のモノを作らない,情勢の変化に応じて即座に対応できるといった生産管理システムは目を見張る。先の本と同じく長く我が家のトイレにあった「トヨタ式経営18の法則」にはJITの極意が簡単に触れられている。それはモノの流れを示す,サプライチェーンを各単位に分割し,全ての単位が全体の流れに同期化するという考え方である。部品加工から製品作られ,さらに流通に置かれて販売されるこうした流れ,さらにはいくつもの下請けと親会社,流通会社これらについて工場内の最小単位から,工場ごとの中単位,さらには流通単位まで同期化するというのであるから驚いてしまう。
 親会社から下請け企業に派遣された親会社社員は「協力会社とともに知恵を絞って『どうすれば安くつくることができるか』を考えて改善に取り組み」,納期,単価,品質の厳しい要求に応えていくということになるのだろう。「サプライチェーン」の手法は「カンバン」,「ミエルカ」から始まり,IT技術を駆使したり多くあるようだが,同期化という一つの文化を創り上げていく過程そのものであると言ってよいかもしれない。確かにサプライチェーンはすごい。しかし,そんな世界がよいかどうかというのは別の問題だ。