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№31 EU欧州連合と中小企業政策(三井逸友著)

 EU欧州連合と中小企業政策を読んだ。1995年に著されたこの本は1080年代から1990年代にかけての欧州統合の分析を行っている。欧州の中小企業政策については三井先生意外の専門家は少ないのではないだろうか。この本は欧州の事情を紹介したものとして興味深いが,今日では少し古いかもしれない。
 この本で11章以下には日本の下請け企業のあり方がヨーロッパでどのように受け入れられているかが紹介されている。1980年代から90年代にかけて日本の高い経済力に学びたいという要求や日本企業の欧州進出への期待から,日本における大企業と中小企業との関係,中小企業同士の関係について研究が進んだ。このような動きに対して,「時には『日本的下請関係』はそのまま,大手メーカとサプライヤー企業の牧歌的な共存共栄の関係であると錯覚され,年々厳しいコストダウン目標や合理化努力の追求は見えてこない感もある。」と論じる一方,「極力中小サプライヤ企業の不利を抑えながら,またそれらの特定企業への『従属』を避けながら,望ましい『効率的な生産を実現し,国際競争力を強化しようという,一種の『理想論』的含意があると言うべきかもしれない。」(209頁)とも述べている。
 これはその後の欧州の展開にかかっているということであろうか。今回,中小企業同友会では欧州中小企業事情の調査に出かけていたが,私が聞いた報告の範囲は残念ながらこの点での言及は無かった。"small is first"となっているのか,あるいは日本に「一周遅れのトップランナー」(229頁)に過ぎなかったのかは分からない。