№2217 危機管理と契約書の役割
顧問先の幹部会向けの契約書の重要性を説明するレジメを作ってみました。
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1. こんな場合どうする
甲社は部品Aを製造して乙社に納入していた。乙社はAを使って完成品Bを製造し,大手メーカーに部品Aを供給していた。平成30年1月から5月までの取引量は10万個,1個あたりの単価は300円であった。この10万個に不具合があり,乙社は直ちに甲の担当者を呼び出し,今後の対応を求めてきた。
2. 危機のレベルは不具合の程度によってランク付けされる
危機にはレベルがあります。まず,危機にあってまずレベルを判断していくことが必要です。
ランク0・・・不具合はなかった。もしくは,乙社に問題があった。
ランク1・・・不良と言えるがB製品の性能にはほとんど影響はない
ランク2・・・不良のためにB製品に無視できない影響を与えるが,量はわずかである。
ランク3・・・不良のためにB製品のほとんどに無視できない影響を与える。
3. 不良の解明と顧客の要求
【必須の行動】
① 顧客に出向き,すみやかな実態調査と原因解明。
→ 危機のレベルを判定する
「申し訳ありません,不具合の原因を直ちに解明し,対策もあわせて報告します。」
② 謝罪する。責任の取り方については安易に回答しない。
→ 責任のあり方は危機のレベル判定後
「当社の責任については,原因と対策解明後申し上げたいと思います」
4. 不確定要素を減少させる
危機にあって,最初は情報量が少なく不確定要素がある中で判断していくことになります。情報が集まるに従って不確定要素は減少していきます。
契約書による当事者間の関係の範囲で責任は確定していきます。
① 不具合の存否,程度
② 不具合の原因
③ 不具合が顧客にもたらす損失
④ 不具合に対する顧客,最終購入者の態度
5. 責任の枠組みは契約書によって決められる
全ては契約の枠組みを基準に判断されていきます。
商品と代金のバランスが崩れたときに紛争となる。
賠償はバランスを取り戻すプロセスである。
6. 契約は責任方法,責任期間限定する
横軸(損害)・・・交換・補修・減額,賠償,最終購入者,消費者
縦軸(時間)・・・0年,半年,1年,5年,20年
例:保証
本製品に瑕疵ある場合、乙は納入後半年間に限り、代品との交換、瑕疵の補修または代金減額をする。納入後半年経過後は有償による交換,補修を行う。
7. 契約の一生と問題の発生
① 仕様の決定:商品の特定 → 顧客にどんな性能を保証したか
② 発注・受注:契約の成立
③ 納入・検査:履行の完了 → 検査完了により納入となる
④ 組立・完成:隠れた瑕疵 → 責任期間の限定
⑤ 市場 → 製造物責任
8. 危機管理と記録の重要性
契約は骨格だけ。内容は記録(議事録,メール,メモなど)から判断される。
例えば,「仕様」
「-30℃に耐える」 → 実験室内か外部環境下であるか
例えば「検査」
納入品4000個うち,50個抜取検査を行ったところ7個に不具合があった。
① 単位とするロットは何か
② 抽出検査方法に取り決めはあるか。
③ 不具合の基準は適切か
9. メール,議事録フォーマット
① テーマ
② 日時・場所・参加者
③ 決められた項目
④ 経過メモ
10. 危機に出会ったら
弁護士の役割
① 相談 → 危機の枠組みを認識
② 協議 → 情報の収集と不確定要素の減少
③ 方針 → 責任の取り方を決断
④ 交渉 → 信用の維持と責任の限定
⑤ 決断 → 和解するか,訴訟するか