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№1171 契約書の役割

№1171 契約書の役割
 取引社会では契約書の存在はきわめて重要だ。しかし、中小企業の実際から見るととても重要な取引であるにもかかわらず契約書がないことある。あるいは、契約書があっても相手の出す書式そのままに契約を締結していたりして、実際に問題が起こってみると非常に不利になっていることもある。

 例えば、相手がいつでも逃げることができるよう契約書を結ばないことがある。時には発注書も出さないことがある。こうした例は比較的大きな企業に多い。つまり、常に有利な取引先を探しているため、契約関係をあいまいにしておき、有利な取引先が見つかればすぐに関係を解消できるようにしておくのだ。

 ある企業は、ある生産ライン開発を受注した。この企業はプラント全体の設計を行い、当然プラント建設全体を請け負えるものと信じていた。

 しかし、いざ工事が始まる段になってきて、工事の発注を2段階に分けて欲しいと申し入れてきたのだ。しかも、施主には大規模プラントを請け負わせるのだからというので第一段階の発注の値段の値引きも求められた。

 そして、いざ、2段階目の発注書をもらおうという段になって発注書は出さないということになった。より安く請け負う別の業者に発注したのだ。設計を行い、かつ、1段階目について値引きまで行ったのにもかかわらず別の業者に発注するのは信義に反する。

 この事例では自社が有利な段階で契約書を締結していなかった点が誤りということになる。つまり、設計を行い工事の全体を見通し、この事業者に逃げられるとプラントができないという時点で工事全体に受注する契約書を締結するべきだったのである。

 商売の過程では力関係が逆転する場合、自分たちが有利になっているポイントがある。その時にきちんとした契約を締結する必要がある。

 あまり利益をむき出しにすると顧客に逃げられてしまうと言う危機感もあるかもしれないが、経営者としては契約によって利益を確実にしておく努力を怠ってはならない。例えば、この事例でも第1段階の発注書に第2段階目の工事の受注に関する事項を書いてもらう、あるいは受注書に2段階目の工事の開始時期、金額、納期などを書いておくとか工夫があったかもしれない。