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№1121 米国向け 日本環境法紹介

№1121 米国向け、日本環境法紹介

 米国の企業向けに日本の環境法の紹介をしてほしいという依頼が来た。環境法は欧米では非常にきびしいためきちんと対応しないと命取りとなる。特に米国ではそうだ。大手ローファームでは企業向け環境法対応の特別セクションを必ず作っている。私の担当した部分は法の執行力の確保だ。

 日本の場合、専ら行政分野で問題となっている。廃棄物処理業界ではきちんとしないと命取りとなるため、専門の弁護士を顧問に雇っている例がある。そうでなくても、最近では企業は環境分野に敏感にはなっている。

 企業にとって環境問題は社会貢献の一つになっている。CSRとして森林を保全したり、リサイクルに協力したりしている。こうした企業の力はけっこう大きい。

 また、一方で、環境法に違反することで社内外に大きなダメージを与えることになる。環境破壊によって人身被害などが出たら企業に取っては致命傷になりかねない。こうした意味での環境問題はもっぱらコンプライアンスの問題として議論されることが多いだろう。

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(以下は私担当部分の原稿)

1. 法の実行性を確保するための制度
  日本の環境法は環境基本法のもとに公害、循環監理、自然・文化保全、地球環境保全などに分けられている。こうした政策を実施する上で実行力を持たせるためには、届出や許認可による方法、行政命令を発しそれを刑罰や代執行によって担保する方法、刑事罰による方法などがある。また、付加金や税などによる誘導や違法な事実による公表と行った制度もある。また、市民による損害賠償や差し止めといった訴訟も環境破壊者にとっては脅威となっている。

2. 届出、許認可
  環境に影響を与える行為に対して、届出、許認可による規制が行われる。これらは日本では一般的な手法である。届出とは当該行為前に担当行政庁に計画を知らせる行為である。届出がない場合は刑罰など何らかのペナルティが課せられることになる。届出による行政による監視が始まり、法に違反すれば是正命令が課せられることになる。是正命令に違反すれば罰せられる。このように届出の場合、多くは違法行為に対する警告的な命令が行われ、命令に従わない場合には罰せられるという構造になっている。
  許可は特定の行為を行うに当たって行政の許諾が必要な場合である。行政が許諾しなければ行為を行うことはできない。「許可」は施設などの設置の許可と当該施設の運用の許可と2つの場面で登場する。例えば、廃棄物処理業を営む場合は施設の設置のための許可が必要である。また、廃棄物処理業を営むための別の許可も必要となる。許可に違反して行為すれば、行為の禁止を命じられるとともに刑罰などの罰則が科せられる。許可については行政当局は条件を付することがある。例えば、大規模開発を行う場合には野生生物保護のための条件を付することが少なくない。条件に違反すれば許可が取り消される。

3. 命令、行政指導
  環境に影響を与える行為に対しては命令、行政指導によって是正されている。行政指導は「行政が望ましい行動をとるよう要請する」行為である。行政指導には法的な法的な強制力は与えられていない。しかし、日本では行政実行力が強いため行政指導にもかなりの効果がある。行政指導に従わない場合、行政の協力が得にくくなる結果、事業遂行が滞ってしまうことがしばしばあるからである。また、行政指導に従わない場合には氏名の公表など法的な強制力の伴わない措置が講じられることがある。行政手続法は不当な行政指導を禁止している。

  行政命令は法的な強制力を伴う行政の措置である。特定の法に基づき発せられ、命令に従わない場合には行為の禁止、許認可の取消、刑事罰、行政上の制裁などがある。行政命令は強力な措置なので発せられる前の行政による警告があるのが通常である。違法な環境破壊行為に対して行政命令を義務づける訴訟は可能であるが、裁判所が命じることは非常にまれである。

  行政命令に従わない場合には行政は代執行を行うことがある。これは事業者が自ら行わない場合に行政が事業者に代わって是正措置を実行する手法である。日本には行政代執行法がありそれに従って手続きされる。自由社会では事業者が自主的に環境是正措置を行うことが原則である。国民の税金を使って違法行為を是正することは本来許されない。そのため、行政代執行が行われるのは規模大きく悪質であるとか、他の行政行為を実施するために是正する必要があるとかいった場合であることが多い。執行費用は行政が違反者から徴収することになる。

4. 経済的な手法
  刑罰や命令などは規制的な手法と呼ばれている。これに対して、環境保護を前進させる行為に対して補助金を与えたり、逆に特定の環境負荷行為に対して課税したりする方法がある。補助金は我が国ではかなり幅広く行われている。例えば、外来種の駆除、自然再生、森林保全などの措置や公害防止装置の設置、再生可能エネルギーの利用などに補助金が支払われており、その幅は広い。環境負荷行為に対する課税としては例えば市民のごみ処理の有料化がある。また、自動車等ではリサイクルに必要な費用が自動車販売時に徴収される。これらの手法は環境保全にかかるコストを事業者や消費者に負担させることによって環境保護政策を前進させようというものである。

5. 情報管理、モニタリング
  事業活動の届出制度は行政が環境に影響を与える行為を監視するために、情報管理が義務づけられることがある。ダイオキシン類、窒素酸化物や硫黄酸化物と行った有害ガスを排出する企業に対しては常時モニターし
、記録を管理することを義務づけている。モニターする事項は法律が定めており、多くは定期的に報告することになる。公害発生原因となる特定の企業に対しては「公害防止管理者」の設置を義務づけ、日常的に公害ガスの監視をするよう義務づけている。温室効果ガス排出抑制のために、一定の事業所にはエネルギー管理員の選任が義務づけられ、温室効果ガス排出量に関する情報の提供が義務づけられている。遺伝子組換え生物の利用については法によって利用内容を記録することが義務づけられている。

  廃棄物処理問題については情報管理がきわめて重視されている。金銭を得る為に不法投棄がされたり、過剰な焼却行為によって公害が発生することが後を絶たないためである。市民、行政に情報を提供するために廃棄物処理施設を設置するに当たっては事業者はアセスメントを実施しなければならない。廃棄物の処理を依頼する者は産業廃棄物管理票を委託時に交付しなければならない。管理票によって誰の廃棄物がどこに廃棄されたか分かる仕組みになっている。マニュフェスト制度に違反する場合は罰せられる。廃棄物処分業者であれば廃棄物処分業の許可を取り消されることがある。

  現在社会は多くの化学物質が利用されている。化学物質の排出が微量であっても長期にわたる場合、発がんやホルモンの異常など被害をもたらすことがある。化学物質がいかなる被害をもたらすかについては不確実であることが多い。そこで、日本ではPRTR(Pollutant Release Transfer Rejister)制度を設けて、情報の開示、公表によって市民の監視下においてリスクを管理する手法がとられている。輸入量、利用量などについて管理、公表が義務づけられている。また、環境への影響が未知である化学物質についてもMSDSと呼ばれるデータシートの作成が義務づけられている。MSDSには物質の特性、危険有害性の分類、被害発生の場合の応急措置、取り扱い上の措置、廃棄上の注意などが記載されており、公表が義務づけられている。

6. 市民による環境監視など
  日本では市民訴訟条項は存在しない。環境法分野においては団体訴権は制度としても判例としても認められていない。クラスアクションのような制度もない。しかし、公害事件については民事上の不法行為責任が認められるため、日本では企業を相手に多くの損害賠償請求が提訴されている。また、多くの裁判例が公害発生企業の責任を認めている。また、日本では国に対する賠償請求が憲法上認められているため、国に対する責任追及も行われている。行政が法規に違反して許可を行った場合には行政処分の取り消しが認められる。日本では法律上利害関係がある者にしか原告適格は認められていない。そのため米国に比較するときわめて狭い。

  公害事件については公害紛争処理法上の制度が設けられている。「調停」「責任裁定」「原因裁定」の手続きがある。この手続きは行政上の手続きであり、司法上の手続きではない。調停は双方の互譲と合意によって成立するものである。原因裁定は、公害の原因について委員会が独自に調査し、原因を明らかにする制度である。責任裁定は委員会が公害の原因を明らかにするとともに、さらに公害企業に法律上の責任があるかどうか判断する作業を行う。