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№1191 「事故米」事件の顛末。行政と戦う。

№1191 「事故米」事件の顛末。行政と戦う。
 本日紹介の事件は化学澱粉製造販売する事業者が長岡保健所長(新潟県)の「事故米穀」回収命令を争って訴えた事例だ(新潟地裁H23.11.17、判タ1382号90頁)。

 行政は常に正しいとは限らないため、時には戦う必要が出てくる。自分で言うのも何だが当事務所は行政対応では日本有数の水準を持っているのではないかと思う。大部分の弁護士は行政事件など扱わないが、当事務所では常に数件の事件が係属している。

 本件事例では事業者は米穀を加工して食用米澱粉を販売していた。ところが、カビの発生等による非食用の事故米穀を原料として米澱粉を製造した。非食用の原料などで食用、非食用と区別して販売しなければならないところ、区別無く売却してしまった。この点、長岡保健所長(新潟県)は食衛生法54条に基づいて回収を命じた。

 新潟地裁は保健所長の命令を違法であるとして取り消した。
 その根拠はちょっと複雑だが、行政処分をするにはその理由を付記しなければならないが、「行政手続き法14条1項が要求する程度の理由付記があったとはいえず、」取り消したのである。

 回収命令は根拠法として食品衛生法6条とのみあげた。ところが、6条はさらに細かく規定されていた。1号から4号とあり、腐敗の場合、有害物質混入の場合、病原微生物で汚染された場合、不潔な場合など、場合分けされており、それぞれについて命令できる場合が違っていた。そのため、6条を根拠とするというだけでは事業者は一体どういう根拠なのか分からないというのである。

 理由付記をしない行政処分は違法だ。理由が示されなければ行政を戦うことができないからだ。私達はこれを「適正手続き」と呼んでいる。憲法31条やこれをうけた行政手続法が理由の付記を求めている。理由には処分された者が不服を申し立てることができる程度に示されなければならない(最判3H23.6.7判タ1352号123頁など)。

 日本の行政は網の目のように規制を加えているため、企業にとっても行政との対応は無視できない時がある。必要なことではあろうが、行きすぎた規制のために企業の自由な活動が阻害されることも多い。中国などの社会主義国などの様子を聞くと手続きの簡略化がいかに重要かは実感する。こうした行きすぎた行政に対してチェックし、コントロールするのも弁護士の役割だ。