№1122 中国法下の債務不履行
中国の遵法意識は十分とは言えない。契約があっても守らないなどということはめずらしいことではない。契約を守らない場合は日本であれば損害賠償請求ということになるが、中国ではどのような仕組みになっているだろうか。
中国では1999年契約法が制定された。従前は経済契約法、渉外契約法、技術契約法と3つあったが、統一されたのだ。そのため契約に関する問題は契約法を基準に考えていくことになる。
日本の契約でもそうだが、賠償金について立証することは意外に難しいことが多い。例えば、「納期が遅れたせいで生じた損害」と言ったところで、それが何であるか判断するのは難しい。そのため、契約書には債務不履行になったときの賠償額を予め定めておくことが一般的に行われている。
中国においても、契約に違反した場合の措置を明確にしておく必要があることはもちろんである。
債務不履行となった場合には金銭賠償ということになるのだが、この金銭賠償について中国契約法では損害賠償請求金、違約金、手付金の3つが存在する。「三金」と呼ばれているそうだ。
債務不履行によって損害が発生すれば損害賠償請求をすることになる。
賠償金を予め約定しておくことができる。この場合は違約金ということになる。
違約金は債務不履行の場合に実損を填補するために予め定められた賠償金だ。契約上は実損を上回ろうが、下回ろうが原則約定の賠償金を支払うことになる。しかし、中国契約法では、実損部分が約定の賠償金額と大きく異なる場合には人民法院や仲裁機関に修正を求めることができる(中国契約法114条2項)。これは我が国にはない制度だ。
この修正条項についての裁判例については当ブログでも紹介したことがある。
手付金は中国契約法に従えば、契約上の債権担保の性質をもつ契約履行に先立って支払われる金員ということになる(中国契約法115条)。契約が無事履行されれば、代金に充当されるということだから代金先払いの性質も持つだろう。債務が履行されない場合は賠償金として没収される。その意味では違約金も兼ねていることになる。
ややこしいのは、損害賠償金、違約金、手付金の相互の関係だ。
賠償金と違約金との関係 → 違約金
違約金と手付金との関係 → いずれか選択できる(契約法116条)
手付金と賠償金との関係 → 併存する。
賠償金、違約金、手付金 → 理屈上は手付金か違約金かの選択。
用語が日本の場合と似ているし、内容も似ているが微妙に違うので注意しておく必要がある。