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№521 循環取引が無効とされた事例

№521 循環取引が無効とされた事例

 循環取引という言葉があるらしい。最近知った。

 ある商品を、A→甲→Aと転々と譲渡させ、戻ってくる取引だ。
 あるいは、ある商品について、A→Bと直接売買するところを、わざわざ、甲をかませて、A→甲→Bと取引する。この場合は「介入取引」という言葉が使われる。
 
 こんな取引は「甲」にとって、どんな意味があるだろうということになる。
 わざわざ、商流(商品の流れ)に介入することで、甲は何にもしなくても利益をあげられる。こうした循環取引は、実質的には金融目的で行われたり、売上高を作出して業績を粉飾する目的で行われることが多いらしい。
 
 循環取引では商品の価値はどうでもいい。
 極端なことを言えば、無くたっていい。書類上、売り買いがあったことにしておけば十分である。
 そういえば、パチンコを現金化する時に、ボールペンとかどうでもいい物を景品して、別のところで景品を現金にしてもらう。客にとって景品はどうでもいい。これにちょっと似ている。
 
 東京地裁の事例だが、ソフトウェア入りCD-ROM10枚が取引された。このCD-ROMは中身はないが8億円で取引された。原告は8億円の売買代金を請求したが、被告は意味のないCD-ROM10枚のために、そんな大金は払えないと反論した。この事件、CD-ROMはA→B→C→D→Aと流通する予定で、典型的な循環取引だ。
 
 お互い意味のない取引であることが分かっている場合は、お互い分かっていたのだから、ちゃんと契約通り払えというのが循環取引をめぐる判例の流れだ。しかし、東京地裁は、被告は中身なしとまでは分かっていなかったとした。そして、商品価値が8億円も無かった取引を8億円としたのは、勘違い(錯誤)による売買であるとして、取引を無効とした。つまり、被告は代金を支払わなくても良いとしたのだ(判タ1319号138頁)。
 
 循環取引は「空」取引であるから、意味ある取引ではない。形式的に売買があればよいというもので、なんとなくいかがわしい。裁判例は、お互い架空取引と分かっていた場合は、分かっていたのだからそのまま法的効力を与える。片方が分かっていたとは言えない状態であれば、無効とすると言う考えのようだ。