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№476 取締役の退職金

№476 取締役の退職金

【最近の相談から】
 私はある会社を買い取ったのですが、会社の権利が移転する直前、売り主である前社長が退職金として5000万円ほど受け取っていることが分かりました。そのために、会社の資産はほとんど無くなり、会社を買ったものの大変こまっています。このような退職金は許されるのでしょうか。

 取締役に対する退職金はどのように決まるだろうか。
 退職金も役員報酬となるのだが、会社法361条は次のように定める。
「取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益(以下この章において「報酬等」という。)についての次に掲げる事項は、定款に当該事項を定めていないときは、株主総会の決議によって定める。」
 
 つまり、定款になければ、株主総会の決議が必要だ。この決議がない場合は無効となり、会社は役員に対して返還を求めることができる。退職金を支払うときは必ず総会議事録を作成しておくことが必要だ。
 
 しかし、中小企業の場合、総会など開かれていないことも少なくない。そのため、退職金も代表者の考えだけで決められてしまうこともある。中小企業の場合、代表取締役が株主のほとんどを所有していることが多い。いちいち総会など開かなくても、総会を開いているようなものだという考えもある。
 
 総会が開かなくても、株主全員の同意がある場合には総会決議と同視してもよいかもしれない。地裁判例の中には、同視してよいとするもの、信義則上支払いを拒むことができないとするものがあるようだ。信義則というのはわかりにくい言葉だが、要するに、総会決議があったと同視する事情があるのだから退職金を認めるべきだということだろう。
 
 そこで、相談のケースだが、前社長が全株式を所有していたという事情があるため、退職金の受け取りが可能となるかもしれない。しかしながら、会社の財産状態を踏まえて、会社の売買が成立した場合には、そのような退職金を受け取る行為は許されない可能性がある。
 
 最近、退職金に関する最高裁判例が出て、総会決議がない場合でも、一定の場合、退職金を信義則上受け取ることができるとされた(H21.12.18 判時2068号151頁)。しかし、本件のように、譲受人を害することを知って退職金を受け取っている場合には、信義則の適用はないかもしれない。
 
 また、こうした、会社価値の毀損行為は会社の価値が低下を招いたとして、瑕疵担保責任債務不履行責任を問うことができるかもしれない。