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№140 並木座

中小企業法務ではありません。 №140 並木座
 
 今日の仕事は東京だった。久しぶりに有楽町から銀座まで歩いて丸ノ内線銀座駅から地下鉄に乗った。今はもう閉館となったが,銀座には並木座という邦画専門の映画館があった。

 私が受験した頃の司法試験は苛酷な試験で全体で3つの試験に合格しなければならない。試験が始まって終わるまで期間は5ヶ月ぐらいある。最後の口述試験は東京で行われ,最終発表まで1週間ほどあった。普通はそれぞれの郷里に帰り,発表の通知を待つのであるが,私は両親に費用を頼んで発表まで東京にいることにした。

 その間1週間。当時,私は東京の映画を思う存分見ようと考え,1日3つ以上の映画館をはしごして,1日10本ぐらい映画を見ていた。朝起きるとピアを見て,映画館の題目を見る。映画館を地図に落とし,終了時間を組み合わせ移動した。レイトショウを含めれば本当に何本見たか分からない。どれも旧い時代の邦画,洋画だが,名作ばかりだったのでどれもが強烈で,たった1日でも,何日も東京にいるような気がしたものだ。

 そんなか一番大事にしていた映画館が東京銀座の並木座だ。平日の昼間だったということもあって,84席しかない座席に,客はまばらで,そんな中を私は深く椅子に座り込んで成瀬巳喜男の映画をじっと見ていた。映画館というのは不思議なところで,何だか生きる力が湧いてくる。何が無くても何かできるようなそんな若い力が溢れている。

 黒沢や,溝口,成瀬など才能ある監督たちが作った意欲的な作品には独特の野心が隠されている。自分の個性で時代に切り込もうという映画独特の野心だ。暗くて,小さな並木座はけっして豪華ではなかったが,野心を感じさせるには十分だったと思う。