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№2448 国際送金による詐欺

 国際送金は最近では電子情報によって指示されることがほとんどだ。そのために、取引先を装って振り込ませる詐欺も多い。取引金額が大きいと被害も大きい。取引上の本人確認は大きな課題だ。

 東京地裁令和3年8月25日判決事例(判時2528号65頁)もこうした事例の一つだ。フィリピンの会社が詐欺グループによって改ざんされた送金先情報に基づき日本の銀行に4万7000ドル振り込んだ。

 この事件は送金したフィリピンの会社に落ち度がある事例だが、国際取引では本人確認は難しい。送金に際してはいつもと違う状況あった場合には敏感に察知して対応する必要がある。

 

事案の概要

 フィリピンの会社はA社と取引があるため、普段はA社名義の銀行口座に振り込んでいた。しかし、詐欺グループはA社のプロフォーマインボイスを改ざんして、振込先をZ銀行、B社としたのである。

 取引があるのはA社なのだから、B社名義というのはおかしい。送金に際しては送金依頼書を作成する。この段階で詐欺を疑ってもよいと思うのだが、B社名義の口座を書き込み、送金依頼をしてしまった。

 

送金する際に詐欺に気づかないというミスがあった

 実は送金依頼書には受取人名にB社とならんでA社の名前を書き込んでいた。A社は被仕向銀行であるZ銀行がちゃんと本人確認して、B社への支払いを拒否するべきだったと考え、Z銀行を相手に損害賠償請求した。確かに(A社/B社)という宛名は変だ。

 

銀行による受取人の本人確認では詐欺は防げない

 受け取りに際して詐欺グループはB社を名乗り、さらにZ銀行員が本人確認した際にはB社の登記、運転免許証を持参し、さらにB社名義のプロフォーマインボイスを持参していた。Z銀行はこれらの情報といくつかの質問により本人確認を行った。

 この事件は送金依頼人である仕向銀行と、振り込み事務処理を行う被仕向銀行の関係が問題になる事例だが、それはさておき、東京地裁は基本的に仕向け銀行からの情報を頼りにすればよいとしている。(A社/B社)とあったとしても銀行はやるべきことはやっているとしたのである。

 

この事件の教訓

 この事件は、プロフォーマインボイスの記載がいつもと異なる銀行で、取引先とは異なる名義の口座に振り込むよう指示されていた事件である。会計担当者は当然に異変に気づき、A社宛てに事実確認のメール、電話などするべきであった。