名古屋・豊橋発,弁護士籠橋の中小企業法務

名古屋,豊橋,東海三県中小企業法務を行っています。

№1948 何を信じて企業買収するか

№1948 何を信じて企業買収するか

 中小企業の企業買収がさかんだ。

表明保証責任ってなんだろう
 企業買収では企業が提出した財務諸表、契約書など法文書などが審査され、それが真実であることを前提に売買が行われる。売主は真実であることを誓約し、保証する。もし、真実でなければ、売主は企業価値が減少した分の賠償責任を負う。これが表明保証責任と呼ばれるものだ。

表明保証責任を否定した事例
 東京地裁H23.4.19判決(判時2129号82頁)は表明保証責任を否定した事例である。
 売主は電子応用機器などを製造販売する会社であり、買主は機械装置、液晶製造装置などを製造販売する会社である。売主は自社の完全子会社を売却したのであるが、その価格はいろいろ操作しているが実質的には2億5000万円である。

 売買契約では会社の事業見通しなど提供された情報が正確であることが表明表されている。ところが、クロージング(M&A契約成立後の代金決済時)以降に、対象会社の製品(1台5150万円)4台の取引が解除されてしまった。全体では2億円を超える取引なので売買代金と比較すればけっこう大きな取引だ。

何を信頼してM&Aを実行するべきか
 この機械取引についての代金回収見込みについては、もともと性能達成が難しい状態にあった。しかし、売主としてはだいたい8割回収できるだろうと見込んで、買主に説明していた。

 8割回収どころか全く得られず、解除によって既払い金の返還まで求められたため、原告は、表明保証と違うとして裁判を起こしたのだ。

 裁判所は8割回収できる見込みとの説明があったという事実は認定した。しかし、性能が達成しないとクレームが来ている事実は売主に報告していた。つまり、機械の持っている問題点そのものの情報は提供していた。8割回収可能かどうかは経営者としての判断の領域だ。そのため,判断そのものは表明保証の範囲外となる。
 
 裁判所も判断に必要な情報を提供していれば表明保証責任としては全うされたと考えた。8割回収か、ゼロ回収かは売主において判断すべきことだとし、表明保証の問題ではないとしたのだ。裁判所は不安があったら契約を先送りしてよく調べておくべきだったという。

判決文は次のように述べている。
「表明保証の責任を負うか否か」は「結局のところ、原告が本件契約を実行するか否かを的確に判断するために必要となる本件機械売買契約に係る客観的情報が正確に提供されていたか否かという観点から判断すべきことになる。」

         名古屋E&J法律事務所へのお問い合わせはこちら
              → http://www.green-justice.com/business/index.html
イメージ 1