№1344 システミック イノベーション(Systemic Inovation)
システミックイノベーションとは「企業が組み込まれている事業システムの別の部分にまで大きな調整を加えなければならない性質のイノベーション」のことである(Teece, 1986;Chesbrough and Teece, 1996)と定義されている。
たとえば,医療分野で医療ロボットの開発が行われようとした場合,コンピュータや関連ソフトウェア,工学的に高度な機械部品,行政的な規制,ユーザー自身の個別のニーズなど多くの要素が相当程度の完成度をもって参与されなければ開発されない。こうした多くの部分の統合によって生まれる商品は,最終的なイノベーションのためには多くの補完的なイノベーションがはかられていなければならない。
また,それにかかわる複数の企業,ステークホルダーたち共通の意識,何らかの形でシステミックに関連づけられている必要がある。つまり,一つのイノベーションがシステミックに関連づけられた企業群,行政機関,大学などの研究機関によって生み出されていくところがシステミックイノベーションの意味となる。
システミック(systemic)とは,「組織の,全体に影響を及ぼす」というような意味で,オックスフォードの英英辞典では "affecting or connected with the whole of something, especially the human body"となっている。企業群などの関係者が人体のパーツのように相互に関係づけられてイノベーションを生み出していく関係ということになるか。
このような企業相互,産学協同の相互の関係については,相互に補完的なイノベーションを持って参加していなければならないことになる。新しい医療ロボットが生まれるために,それに参加する企業や研究者は相互に何か持ちよらなければならないし,イノベーションにかかる情報,アイディアを相互交流することが不可欠となる。この意味においてイノベーションはオープンなものになるだろう。
さらに,イノベーションというものが単に知識の創造にとどまらず,現場でのものづくりに結びつき,さらには市場に参入するという過程が必要ということであれば,「洞察を示す」過程ばかりでなく,ビジネスとして成功する意味で「産業を形成する」過程も必要になるだろう。
問題は,こうしたシステミックに統合されたメンバー達について,どのようなマネジメントがはかられるべきかということになる。それは,イノベーションが相互に連絡を取り合って,自然発生的に生じるというよりは,なにがしかのイニシアティブが存在し,さらには市場への参入に向けた,戦略的な統制が必要になるように思われる。
以上がオープンイノベーションにおける,システミックイノベーションの議論だが,中小企業にとってこうした議論はかなり有益だろうと思う。というのは中小企業は常に限られた資源の範囲で活動する存在で有り,特定のテーマに特化して恒常的なイノベーションなくして生きていくことはできない。
ベンチャー的なものであろうと,既存技術に磨きをかえるものであろうと,イノベーションなくして存在できない。もし,オープンイノベーションが今日世界全体を覆っている国際的傾向を反映した考えであれば,中小企業としてもこの発想を避けて通ることはできなくなる。
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