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№1149 うつ病解雇が無効とされた事例

№1149 うつ病解雇が無効とされた事例
 うつ病を理由に解雇したが無効とされた事例を紹介する。被告は株式会社東芝なので大企業中の大企業だ。

 原告は解雇されたが、うつ病が業務に起因すると認められたため、解雇は労基法19条1項の「業務上の疾病」に当たり、同法に違反し無効とされた(東京高裁H23.2.23、判時2129号121頁)。

【事例】
 原告は昭和41年生まれの女性で、平成2年に入社、平成10年に深谷工場に配転となり、平成12年には特定工程のリーダーとなった。そのため工程内のトラブルに対応しなければならず、休日出勤も増加した。

 担当業務は変わったが、不眠頭痛が続き、新たな業務もできないと申し出たが受け入れられなかった。職場でも異常な態度が出るようになり、ようやく業務が変更された。

 平成15年1月10日には休職命令を受け、平成16年6月から職場復帰に向けた対応がされたが、復帰不可能であった。平成16年8月6日には休職期間満了により解雇となった。

【争点と判断】
 本件ではうつ病が業務に起因するものであるかが問題となった。業務に起因するものであれば、労基法19条1項により解雇できない。

 一審及び高裁は新たな業務、新たな役職からくるストレスが原因となったとした。その場合、当該労働者にとって業務が負担になったと言いうるかは次の基準によるとした。

「当該労働者と同種の職種において通常業務を支障なく遂行することが許容できる程度の心身の健康状態有する平均的労働者を基準とする。」

 さらに、平均的労働者を基準とするという意味は「同種の労働者集団の最も脆弱である者を基準とすべきものと考える」としている。従業員の中には弱い者もいれば強い者もいる、その弱い者でも耐えられるだけの配慮は必要だと言うことになる。

【評価】
 本件では休業命令が実施され、休業期間経過しても職場復帰できる能力に達しなかった為に解雇となった。事業者としてはこれ以上雇えないと考えるのも止む得ない面もある。中小企業の場合、いつまで雇っていたらいいのだということも言いたくなるところがある。

 本件の場合、しかし、長期にわたり職場復帰できない場合については、どう対応して良いか分からない面がある。本件では業務に起因した上、会社に安全配慮義務違反があったとして、賃金請求件も認めた。中小企業でこのような判決が出されたら、企業のダメージはとても大きなものになる。