№1139 幹部養成には「愛」がいる。(前編)
私はかつてある横領事件の刑事弁護を担当したことがある。
被告人は大手企業の新進気鋭の営業マンだったが、中小企業の社長に見込まれて社員として転職した。社長は大喜びで、私の依頼者に将来幹部になってくれ、支社長になってくれと言い続けた。顧客に対しても大手企業のエリート社員が来てくれたというので自慢の社員ともなった。
ところが、彼に会社では大幅な権限が与えられた結果、最後には長年にわたって会社の金を横領し始めたのだ。その額は何千万円かになり、会社は大きな痛手を被った。
ともかく、この事件が経営者に投げかける問題は多様だ。
この横領社員には横領社員なりの言い分がある。
彼は言った。社長は2年で取締役にすると言っていたが、いつまでたっても取締役にしなかった。それどころか、当初の約束に従った賃金の上昇はなかった。将来の幹部だというので働かすだけ働かせていた。彼の言い分では彼は会社にたくさんの利益をもたらした。しかし、社長は応えてくれなかったという。
彼の身勝手な論理は別にして、いったいこの会社はこの横領事件からどんな教訓を引き出すべきだったのだろうか。
→ 後編に続く。