名古屋・豊橋発,弁護士籠橋の中小企業法務

名古屋,豊橋,東海三県中小企業法務を行っています。

№950 雪の音

№950 雪の音
  
                             

                         
 四郎とかん子とは小さな雪沓(ゆきぐつ)をはいてキックキックキック、野原に出ました。
 こんな面白い日が、またとあるでしょうか。いつもは歩けない黍の畑の中でも、すすきで一杯だった野原の上でも、すきな方へどこ迄でも行けるのです。平らなことはまるで一枚の板です。そしてそれが沢山の小さな小さな鏡のようにキラキラキラキラ光るのです。
「堅雪かんこ、凍み雪しんこ。」

 四郎もかん子もすっかり釣込こまれてもう狐と一緒に踊っています。
 キック、キック、トントン。キック、キック、トントン。キック、キック、キック、キック、トントントン。
 四郎が歌いました。
「狐こんこん狐の子、去年狐のこん兵衛が、ひだりの足をわなに入れ、こんこんばたばたこんこんこん。」
 かん子が歌いました。
「狐こんこん狐の子、去年狐のこん助が、焼いた魚を取ろとしておしりに火がつききゃんきゃんきゃん。」

   

   水仙月の4日 → http://www.aozora.gr.jp/cards/000081/files/1930_9724.html 

 お日さまは、空のずうつと遠くのすきとほつたつめたいとこで、まばゆい白い火を、どしどしお焚きなさいます。その光はまつすぐに四方に発射し、下の方に落ちて来ては、ひつそりした台地の雪を、いちめんまばゆい雪花石膏の板にしました。
 二疋の雪狼(ゆきおいの)が、べろべろまつ赤な舌を吐きながら、象の頭のかたちをした、雪丘の上の方をあるいてゐました。こいつらは人の眼には見えないのですが、一ぺん風に狂ひ出すと、台地のはづれの雪の上から、すぐぼやぼやの雪雲をふんで、空をかけまはりもするのです。
「しゆ、あんまり行つていけないつたら。」雪狼のうしろから白熊の毛皮の三角帽子をあみだにかぶり、顔を苹果(りんご)のやうにかがやかしながら、雪童子(ゆきわらす)がゆつくり歩いて来ました。
 雪狼どもは頭をふつてくるりとまはり、またまつ赤な舌を吐いて走りました。
「カシオピイア、
 もう水仙が咲き出すぞ
 おまへのガラスの水車(みづぐるま)
 きつきとまはせ。」
 雪童子はまつ青なそらを見あげて見えない星に叫びました。その空からは青びかりが波になつてわくわくと降り、雪狼どもは、ずうつと遠くで焔のやうに赤い舌をべろべろ吐いてゐます。