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№706 中国M&A判例より

№706 中国M&A判例より
■ 相手が出資を拒んで困っている。
 さて、事例は香港法人が中国法人と共同して合弁契約を締結した事例だ。香港法人は5回に分けて現金を出資する契約であり、中国法人は設備を含めた工場を現物出資する契約だった。香港法人は3回まで支払ったが、2回は払わなかった。そこで、中国法人は設備の名義移転を一部行わなかった。

■ 出資がうまくいかない時の対応
 中外合弁企業の場合、一方が出資を完了しなかった場合には、違約当事者は合弁契約の一切を放棄したものとみなされる。中国法人側がこの条文を理由に合弁の解消を求めた。

 一方、香港法人は、中国側が現物出資を怠っている点不安が残るから出資の支払をしなかったとした。つまり、取引上不安のある相手方に対しては、自分は履行しなくてもよいという主張をした。これは「不安の抗弁」と呼ばれるものである。

■ 「不安の抗弁」
 中国契約法では「不安の抗弁」が明文化されている(契約法68条)。これは一方の当事者の商業上の信用が著しく悪化している場合に、他方の当事者は自らの履行を拒むことができるというものだ。
 
 本件については合弁行為という会社設立にかかる行為について、「不安の抗弁」が適用されるか問題となったが、最高人民法院は中国法人は義務の大部分を既に履行して、合弁企業も操業していることを理由に「不安」はないとした。

 最高人民法院は合弁契約にも不安の抗弁が通用することを前提に、信用上の不安があるかどうかを判断したのである。

■ 教訓
  この事例はおそらく、相手が出資を履行しない場合に関する条項が契約書に無かったのではないかと思う。