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№674 口約束はダメ

№674 口約束はダメ
 法律の世界では何もかも確定していることが原則だ。
 売買の契約成立時期は明確なはずだ。その時に目的物も、代金も、納期も全て決められるはずだ。
 
 しかし、実務、とりわけ中小企業実務ではこの通り行かない。だからこそ、紛争も多いし、弁護士も商売になる。
 
 女性用特大下着を売り出せば儲かるのではないかと考え、Y会社が、X会社と協議した。予定では、X会社がY会社に商品を売却するという内容だった。両者がデザイン、寸法、材質など詳細に打ち合わせ、試作品を作って完全な型見本も作り、洗濯テストなども実施した。
 
 いよいよ生産開始という段階になって、X会社はY会社に代金の先払いを求めたのだ。ところが、Y会社はものが入ってからでなければ払えないと言い始め、さらに代金も決まっていないのだからいつでも関係を解消できるとした。
 
 結局、話は潰れてしまい、X会社は骨折り損ということになってしまった。そこで、怒ったX会社はY会社相手に、商売がまっとうに行っていたら得られたであろう利益、逸失利益というものを請求した。
 
 この事件の難点は、口約束だけで話が進んでいたことだ。納期も決まっていないし、代金も決まっていない。商品も将来変わるかも知れなかった。ここらあたりはいかにも中小企業的だ。
 
 普通ならばこれは契約は成立していない。なぜなら、契約というのは何もかもきちんと決められていなければならないからだ。
 
 しかし、判決はあまいなことの多い中小企業の実態を考慮したものとなった。
 契約書もなく、「長期間にかけて」いくつかの手順を経る場合には「ある一時点で契約の成否を決するには無理がある」とした上で、ほとんど手順は終わっていたのだから「問題がないではないが」契約は成立しているとした。そして、X会社のうべかりし利益を認めた(東京地裁H.6.8.29判タ880号234頁)。