№540
宮沢賢治
宮沢賢治は私の最も尊敬する作家の一人だ。
賢治の童話はどれもおもしろいが、「虔十公園林」は私の人生観に大きな影響を与えた。
虔十という「少し足りないと」と思われていた人が、小さな杉の木をたくさん植えた話だ。林は子供たちの遊び場となった。町は開発されたが、虔十が植えた公園だけが残った。虔十はチブスで死んでしまったが、子供たちは大きくなった。簡単なので是非読んでほしい。
さて、
宮沢賢治は天才詩人でもある。
春と修羅の序文は次のような言葉で始まっている。「わたくしといふ現象は/仮定された
有機交流電燈の/一つの青い照明です。」
なんとすごい言葉ではないか。
わたくしといふ現象は
仮定された
有機交流電燈の
一つの青い照明です
(あらゆる透明な幽霊の複合体)
風景やみんなといつしょに
せはしくせはしく明滅しながら
いかにもたしかにともりつづける
因果交流電燈の
ひとつの青い照明です
(ひかりはたもち、その電燈は失はれ)
これらは二十二箇月の
過去とかんずる方角から
紙と鉱質インクをつらね
(すべてわたくしと明滅し
みんなが同時に感ずるもの)
ここまでたもちつゞけられた
かげとひかりのひとくさりづつ
そのとほりの心象スケツチです
〈
宮澤賢治「序」(『
春と修羅』)より〉