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№541 借金逃れに対策はあるか

№541 借金逃れに対策はあるか
 債務者が会社をつぶして新会社を設立するという方式で債権を逃れる場合がある。その対策はあるだろうか。三菱の創始者岩崎弥太郎土佐藩から莫大な借財を引き継いだときにはこの方法を繰り返したという。
 
 会社は倒産したらおしまいだ。商売の世界はお互いの信用を図りながら進めていくため、相手が倒産すれば自分の見込みが悪かったということになる。しかし、そうは言っても、眼の前で営業を続けられると頭に来ることもあるだろう。
 
 債務者を逃がさないために、法律は様々な手段を用意している。仮差押さえなどの保全処分(現在の財産を凍結する方法)がある。財産流出を図ろうとしたら、債権者取消権と言って、借金逃れの財産隠しから財産を取り戻して、競売にかけることもある。
 
 別法人に対しては商法や会社法を利用したりして債権を追求する手段も用意されている。法人格否認といって、別法人であることそのものを否定するという究極の方法もある。もっとも、これらの制度はいくつか不備があり、利用に当たっては専門知識や経験も必要となる。弁護士の中にはやったことがないという人も少なくない。
 
 私は一度、借金逃れを許さないという依頼者の強い意向を受けて、思いつくあらゆる手段を講じて裁判をやり続け、ついに不動産の競売まで追い込んだことがある。実際、やってみるとかなり手間と時間がかかって、弁護士としては割に合わないななどと思う。顧問関係にある会社からの依頼でなければやる気になれない。
 
 これは、「仙禽(せんきん)酒造株式会社」が売掛金(段ボール)を逃れるために「株式会社せんきん」という会社を立ち上げ同一の営業を継続した事例だ。売主は怒って「株式会社せんきん」に売掛金を請求した。商法22条1項は事業譲渡に当たって商号を継続した場合には債務の承継を認めるとした条文だ。判決は「仙禽」と「せんきん」は類似していると認定し、支払いを認めた(宇都宮地裁H22.3.15、判タ1324号231頁)。 
 
 この事例は、かなり露骨に同一事業を継続した事例だ。普通債権者は怒るし、あまりにも露骨に事業継続したのもどうかと思う。