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№448 独占禁止法と両建て預金

№448 独占禁止法と両建て預金

※ この記事は2019年7月19日に改訂しています。

「歩積両建て」って知っていますか?
 貸付金の一部を定期預金にする場合がある。定期預金を担保(質入れ)に入れて、お金を借りる形式をとるのだ。同じように歩積み呼ばれるものもある。手形を割り引く際に一部を預金として預かる方式だ。
 
 預金の利率よりも貸し金の利率が高いから、このような貸し付けが不合理であることは容易に想像がつく。普通ではこんな怪しい取引はしない。それでも、そのような取引をするのは銀行が求めるからだ。
 
両建て預金で倒産してしまった事例
 私の依頼者も、かつて1億5000万円ほどの借入があったが、1億円ぐらいの預金があった。金利の負担に耐えかね、何度も相殺精算するよう求めたが銀行は応じなかった。そして、倒産寸前になって、次々と相殺を始め、貸しはがしを始めたのだ。
 
 もう、10年以上も前の話だが、会社は倒産した。社長はこのときの恨みを忘れず、今でも銀行に対して、いろいろクレームをつけている。
 
 この銀行は、信用保証協会から借入をさせ、一旦別銀行に入金させた後に、直ちに、この銀行に預金を移転させ、借金と相殺するという悪質な行為も行っている。ここまでくると詐欺行為だ。このことは社長も荷担したのだが、当時の会社の状況からは銀行に断ることなどできない話であった。これに関しては私も思うところがあって、いろいろ報告書を作成した。現在、社長のクレームは一定の効を奏してた。
 
拘束預金は独占禁止法違反になる場合がある
 ともかく、このような拘束預金は銀行の優越的な地位の濫用に当たる場合が多く、かつて通達などで是正する指導が行われた。現在は、「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針 平成28年6月」の中で、「過度な協力預金、過当な歩積両建預金等の受入れ」などは、監督項目に加えている。

 
 このことから、両建て預金が全て違法かというとそうでもない。多額に借りることができるという信用を維持するために、両建てしてでも借りたい場合もあるかもしれないのだ。契約自由の原則からすれば、簡単ではない。
 もっとも、両建て預金の場合は、少なからず銀行による、「お願い」、「強要」があるように思われる。その場合には、「優越的地位の濫用」と言って、独占禁止法19条に違反することになる。
 
両建預金に関する最高裁判例
 独禁法19条に違反するとした最高裁判例がある。これは、550万円貸し付けたのだが、契約上は1150万円貸し付けて、即時に600万円を定期預金にさせた事例だ(最判2.S52.6.20)。550万円に対する、その実質金利は「年一割七分一厘八毛」という異常な高金利となった。 
           
 しかし、最高裁独禁法違反から取引全てを無効にしなかった。利息制限法の範囲では有効,結果的に法の制限を超える金利部分は無効とした。
 独禁法は取り締まり法規だからすぐには私法上の効果があるわけではないとしたのだ。普通の人にはこの論理はわかりにくい。特に,中小企業など弱者保護を目的とした法律であるにもかかわらず,それについて許される部分があるというのはどうかと思う。
 
 ともかく、難しい話がいっぱいあるということだ。

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最高裁要旨
判示事項
 一、いわゆる拘束された即時両建預金を取引条件とする信用組合の貸付が私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律一九条に違反するとされた事例
二、いわゆる拘束された即時両建預金を取引条件とする信用協同組合の貸付が私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律一九条に違反する場合と貸付契約の私法上の効力
裁判要旨
 一、信用協同組合が、組合員に現実に借受を必要とする実質貸付額五五〇万円を貸し付けるにあたり、右貸付について十分な物的・人的担保があるのに、実質金利を高める等のため、取引条件として、組合員に、貸付額七五〇万円の本件貸付契約及び同四〇〇万円の別口貸付契約を締結させて実質貸付額を超過する六〇〇万円を貸し付け、その六〇〇万円を即時二〇〇万円の定期預金及び四〇〇万円の割増金付定期預金として組合に預託させ、これに担保権を設定して払戻を制限し、また、実質金利が年一割七分一厘入毛余になるなど、判示の事情のもとにおいては、右各貸付契約及び各定期預金契約は、昭和二八年公正取引委員会告示第一一号(不公正な取引方法)の一〇にあたり、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律一九条に違反するというべきである。
二、いわゆる拘束された即時両建預金を取引条件とする信用協同組合の貸付が私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律一九条に違反する場合でも、その違反により、貸付契約が直ちに私法上無効になるとはいえず、また、右契約が公序良俗に反するともいえないが、両建預金及び超過貸付があるために実質金利が利息制限法所定の制限利率を超過しているときは、右超過する限度で貸付契約中の利息、損害金についての約定は、同法一条、四条により無効になるものと解すべきである。 

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