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№416 ブルドックソース事件

№416 ブルドックソース事件
 会社法の分野では「敵対的買収」であるとか、「グリーンメイラー」とか言った言葉が出てくる。敵対的買収に対する対抗手段としてライツプランという言葉も出てくる。米国法の影響が大きく、この種の分野にはやたらと英語の慣用語が出てきて、理解するのがけっこう大変だ。

 ブルドックソースはブルドックのロゴで有名なソースの製造メーカーだが、平成19年にスチールパートナーズ社(SP社)がこの会社の買収をもくろんだ。

 SP社は発行済み株式の全部を取得する目的で公開買付の提案を行った。これに対して、ブル社は友好的な株主に新たに株式1株につき新株予約権3個の割合の無償割当を行い、一方でSP社に対しては、新株予約権の割当はするが行使を許さず、代わりに金銭補償を行う内容のプランで対抗した。

 このプランはライツプランとよばれるもので、新株予約権活用した新戦術だったため、社会的には大変注目された。アメリカ型マネー中心主義の文化は日本でなじむかどうかの試金石となったのである。

 株主は平等でなければならない。しかし、一方で、差別的な取り扱いも許される場合がある。それは、「企業価値」を維持することが目的の場合だ。個々の株主だって、企業あっての株主だから、企業価値を維持するという大義の前には制約される。

 問題は企業価値の維持を誰が判断するかであるが、取締役会、株主総会、裁判所と多様だ。最高裁は結局のところ株主総会の意思が尊重されるとした(最決H19.8.7)。本件ではSP社は経営についての交渉を一切行おうとしなかった。このあたりは敵対的なイメージだ。また、差別的な取り扱いは行われたが、代わりに金銭補償がされ、SP社はかなり利益をあげた。このあたりはある種の緩和措置になっている。こうした事情などが考慮されて、ブル社は無事企業防衛に成功したのである。

 しかし、本来は株式は譲渡は自由だ。上場企業の場合なおさらだ。譲渡自由の原則は取引所を通じて公共的に行われる。株主総会だけの判断で公共的な原則を簡単に崩してよいものかは問題だろう。

 また、株主総会は多数決で行われるが、少数株主の利益はどのように保護されるべきだろうか。ブル社は企業防衛のために多額の出費を行い、株価は長期に低迷した。上場企業の場合、株主は株価に大きな期待をかける。少数株主は新株を割り当てられるとはいえ、多数派によって損害を被ることになる。