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№286 反対尋問

№286 反対尋問
 弁護士の能力が最も発揮されるのは反対尋問だ。
 それまで準備した証拠が立証に耐えられるかどうか試される。

「あなたは次の事実を知っていますか。」
「知りません」
「この証拠の意味はわかりますか。」
「わかりません」

 これは尋問でよく出くわす光景だ。敵性証人に対して、正面から事実を聞いても知らない、わからないと回答するに決まっている。これで終わるとしたら、その弁護士はバカとしか言いようがない。この次から徐々に法廷で認めざる得ないように追い詰めていくのが反対尋問の技術だ。

「この文書を知っていますか。あなたの承認印がありますね。」
「知っています。」
「社内的に議論されたために承認印があるのですね。」
「この文書の『○○』とある部分の意味は何ですか。」

 という具合に証拠を積み重ねて追い込んでいく。私の場合、尋問の中で最もよく使用するテクニックが、肯定しても否定しても当方に有利になる質問方法だ。認めればさらに突っ込んでいき、相手を「自白」に追い込んでいく。否定すれば、非常に不自然な否定なって、言っていることが矛盾だらけになって、相手に「うそつき」だとレッテルをはるといういうものだ。この場合、二度と法廷には行きたくないというところまで敵性証人を追い込んでいく(追い込んで行きたい?)。

「あなたは、この法廷でいくつかの事実を認めましたね。」
「はい」
「この事実はあなたが、社内的に承認したということですね。次の事実も社内的に承認されたと言うことですね。これらからすれば、あなたが社内で承認したと言うことになりませんか。」
「そうかもしれません。」
「そうかもしれません。ではなく、そうなるでしょう。この法廷できちっと認めてください。」
「もう、一度聞きます。この事実は全社的に承認されたのですね。」

 反対尋問は弁護士の仕事の中でも最も経験がものをいう領域だ。証人に対しては常に心理的に優位に立たなければならない。どこで相手の動揺をさそうかもきわめて重要だ。しかし、これは単純な技術ではない。相手の否定できない事実をつきとめ、それを積み重ねて論理的に追い込んでいく作業だ。論理的に認めざる得ないところまでいけば反対尋問は半ば成功だ。あとは、弁護士によって異なる。私の場合、さらに追い詰め、法廷で「自白」をとろうとする攻撃的タイプだ。